表題番号:1997A-541 日付:2002/02/25
研究課題マウスポリコーム相同遺伝子群の機能に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 東中川 徹 
研究成果概要
発生過程で各細胞系譜に分岐した細胞においては通常分裂後においても分裂前の遺伝子発現状態を安定に維持している。この現象は「セル・メモリー」とも呼ばれ「発生における決定」の基本相をなすと考えられてきたがその分子機構は全くわかっていない。最近、ショウジョウバエのPolycomb遺伝子群(Pc-G)およびtrithorax遺伝子群(trx-G)がこの維持機構に関与していることが示唆され、かつ、この遺伝機構の普遍性を反映して、ヒト、マウス、カエルなど他の生物種からも相同遺伝子が分離されている。われわれはPc-Gのマウス相同遺伝子についてその機能解明を多角的に進めてきた。1997年度においては次の成果を得た。(1)マウスPc-G相同遺伝子によってコードされるタンパク質M33,RAE28,BMI1が細胞核内において複合体を形成していることを免疫沈降法およびゲルろ過法により示した。各タンパク質の相互作用に与る領域を欠失体を用いた酵母Two-Hybrid法により同定した。各タンパク質の胚発生における消長および成体組織における分布パターンより複合体は不均一な組成を持つことを示唆した。(2)M33遺伝子の機能を明らかにするためES細胞を介した相同組み換えによりM33のC末を欠失した突然変異体マウスを作製し表現型を解析した。他のマウスPc-G突然変異体で認められた前後軸異常に加えて遺伝子型XYのホモマウスにおける卵巣形成あるいは雌雄同体を認めた。このM33欠失マウスは哺乳動物の性決定機構の解析に好適のモデルを提供すると考えられる。(3)M33の下流遺伝子群を同定するためM33変異体と野生型マウスのRNAについてmRNA Differential Display法による解析を開始した。本実験は昨年度においては方法の確立にその主力を注いだ。今年度において本格的解析段階を迎える。
研究成果の発表(予定も含む)
Y.Takihara, D.Tomotsune, M.Shirai, Y.Katoh-Fukui, K.Nishii, Md.A.Motaleb, M.Nomura, R.Tsuchiya, Y.Fujita, Y.Shibata, T.HIgashinakagawa and K.Shimada, Targeted disruption of the mouse homologue of the Drosophila polyhomeotic gene leads to altered anteroposterior patterning and neural crest defects, Development, 124, 3673-3682 (1997).
N.Hashimoto, H.W.Brock, M.Nomura, M.Kyba, J.Hodgson, Y.Fujita, Y.Takihara, K.Shimada and T.Higashinakagawa, RAE28, BMI1 and M33 are members of heterogeneous multimeric mammalian Polycomb group complexes, Biochem. Biophys. Res. Commun. 245, 356-365(1998)
Y.Katoh-Fukui, R.Tsuchiya, T.Shiroishi, Y.Nakahara, N.Hashimoto, K.Noguchi and T.Higashinakagawa, Male to female sex-reversal in M33 mutant mice, Nature,393, 688-692(1998).