表題番号:1997A-524
日付:2013/05/03
研究課題1940年代におけるルーマニア・シュルレアリスムについての研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学部 | 専任講師 | 鈴木 雅雄 |
- 研究成果概要
- 世界各国で展開されたシュルレアリスムの活動の中で、ルーマニア・グループのそれは非常に特殊なものである。第二次大戦中はファシズム政権下で、戦後はスターリン支配のもとで地下活動を余儀なくされたという歴史的経緯がまず特殊であり、またそのように外部と隔絶した状況で展開された活動も、類のないほどに密度の高い、しかも錯乱的なものであった。今回の研究ではそうした彼らの活動を、新しく発見された資料なども使って明らかにしようと試み、メンバー間の関係が想像以上に緊張したものであったこと、そしてそうした緊張がむしろ創造的に機能したことなどが理解できた。
これと同時に、各作家の文学や美術の実践を支えた方法論をも明らかにしようとしたが、もっとも大きな成果が得られたのは、ゲラシム・ルカのキュボマニーと呼ばれる特異なコラージュ技法についての研究だった。なんらかの既成の絵画や写真を正方形の断片に切り離し、任意に組み合わせたものとされるが、何人かの共同作業でもとの画面の再構成を試みたところ、それが単に偶然にまかせた作業ではないことが証明された。断片のすべてが使われたのではなく、鑑賞者がもとの画面を頭の中で再構成してみたくなるように、しかし再構成しようとするとそれができないように、選別がなされている。キュボマニーとは、見る側の再構成の欲望を意識的に裏切っていくような方法なのである。欲望を充足させるのでなく、通常の形での充足を禁じることで欲望を作り変えていく、それがルーマニア・シュルレアリスムの恒常的なモチーフだというのが私たちの仮説だが、それを裏付ける重要な根拠が得られたと言える。最近の研究は、欲望を「解放」するのではなく「変革」するものという新しいシュルレアリスム像を打ち出しつつあるが、以上の研究はルーマニア・グループを、そうした問題圏の最先端に位置づけるものであると思われる。