表題番号:1997A-520 日付:2002/02/25
研究課題ラオス共和国、チャンパサック州ワット・プー地域における、集落ネットワークの人類学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 西村 正雄
研究成果概要
本プロジェクトは、私が推進してきた、東南アジアにおける複合社会の発展に関する研究の一貫として行っているものである。この研究の主目的は、東南アジア社会―文化の「複合性」の定義と、複合性を測るスケールの確立にある。私がこれまで行ってきた研究により、特定の地域内での集落ネットワークに見られる階層化と、その階層のレベルの数が、複合社会の発展と、正の比例関係にあることがわかってきている。
 そこで本プロジェクトでは、この考えを東南アジアの特定地域を選んで検証するために、集落ネットワークを作り上げている3つの主要素:物資の流れ;サービスの流れ(人的移動);情報の流れ、に関するデータを集め、分析することに集中している。そのための研究地域として、ラオス共和国、チャンパサック州、ワット・プー地域を選び、そこでのフィールドワークを通じて第一次データの収集は終了している。
 フィールド調査は、1997年7月―8月、11月―12月、1998年1月―3月の期間行い、内、1998年1月―3月までの調査及びその後の分析に、本研究費を充当した。今回の調査では、時間と予算の関係から、物資の流れについての調査に集中した。調査は、ワット・プー遺跡に一番近い、すなわち地域の中心に近いものから開始した。20村落の調査を終了している。調査は、各村落の全世帯数の10%ランダムサンプリングの形で家族を抽出し、抽出した家族の中に入ってインタヴューと観察の2つの方法で行った。
 現在まだ資料の分析中で、結論を述べるには時期が早すぎるが、以下4点について、この地域の資源利用に特異なパターンが見られるように思われる。
1. 自給自足的経済システムがこの地域でよく確立している。生活必需品:食料、燃料、容器類等は、ほとんど身近な自然環境の開拓で調達している。
2. 村落間の生産物の専門化が見られる。すべての村落の基本的生業形態は水田耕作であるが、それに加えて他の生産活動を行っている。この二次的生産活動から生じる産物の点で、多くの特殊化が見られる。特殊な手工芸をそれぞれの村落が持ち、それらを村落間交換の形で流通させている。
3. 地域に大きなマーケットが存在しないため、村落間の物資の交換が、地域の経済で重要である。これにより、物資が広く分配され、資源へのアクセスの点で、一様化が図られている。この一様化が、地域の結束に重要な意義をもっている。
4. 年に一度の大きな宗教的なお祭り(ワット・プーフェスティバル)が、地域外で生産された物資を地域内に入れる一種のマーケットの役割を演じている。
研究成果の発表
March 1998
Capacity Building in Cultural Heritage Management within the Context of Assistance for the Preservation of Wat Phu. Research Report of UNESCO. Bangkok: UNESCO Office of the Regional Advisor for Culture in Asia and the Pacific.
1999(予定)
A Study of Settlement Systems in the Wat Phu Region, Champassak Province, Lao PDR (provisional) Journal of Asian Studies.
1999(予定)
ラオス共和国、ワット・プー地域における資源の利用状況と、集落システム。『史観』(早稲田大学史学会)。