表題番号:1997A-518 日付:2002/04/02
研究課題四国山地(徳島県東祖谷村名頃地区)に聞かれる方言アクセントの研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 上野 和昭
研究成果概要
四国山地の奥深く、剣山の山懐に徳島県三好郡東祖谷山村名頃地区がある。この地のアクセントを、1996年7月以来数次に渡って調査して、ほぼ次のような成果を得た。
(1) 東祖谷山村の諸地域(樫尾・小川・大枝・久保・落合)の年配層に聞かれるアクセントは、ほぼ同郡木頭村のそれに同じく、「近畿中央式のやや古い体系に対して、高拍が語頭から2拍以上連続する場合に、これを語頭に限って低下されるもの」で、いわゆる垂井式アクセントに近似する。
(2) しかし、名頃地区においては、上記語頭低下と同時に、近畿中央式の高平型に対応するアクセントに限って、その末尾拍を低下させた型が聞かれる。これら語頭低下と語末低下とは後者が前者に優先して実現しているが、前者が語頭に高拍連続がある場合のすべてに実現しているのに対して、後者は近畿中央式の高平型に対応する場合にのみ現れている。
(3) 同地区よりも東祖谷の中心部寄りの菅生地区では、一部の動詞(着る・為る・置く、など)に語末低下が聞かれるに過ぎず、ほぼ東祖谷一般のアクセントが聞かれる。
(4) 名頃地区は、もと同村北方の深淵地区から江戸時代後期に移住した人々によって開かれたところらしく、そのアクセントも東祖谷一般のそれよりも古いものというよりは、深淵あるいは一宇村・半田町などとの関係を考慮すべきものと思われる。
(5) 同地区の動詞アクセント体系は、アクセント型の姿こそ違え、類毎に観察すれば、近畿中央式と同様に、3拍2類5段動詞が1類と、同じく2類1段動詞が3類と合同し、しかも後者が前者に先んじている様相を呈している。
(6) また形容詞アクセントでは、3拍ク活用の1類がみな終止連体形HLLで、HHLから語頭低下したLHLではないことから、これら1類(もとHHL)と2類(HLL)とがHLLに合同してのちに、語頭低下が起こったものと推定され、語頭低下がそれほど古いものではないことを思わせる。