表題番号:1997A-510 日付:2003/02/18
研究課題土地所有権に対する私法的・公法的規制から見た現代的な土地所有権のあり方について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助手 秋山 靖浩
研究成果概要
現代的な土地所有権のあり方について、その問題の諸相を捉えることに重点を置いて研究を行った。
 日本において、土地所有権(土地利用権)は無制限でないという共通認識はあっても、それをどう具体化するのかが問題となっている。法律学の立場からは、特に土地所有権制限をいかに説得力ある形で正当化するかが重要である。都市・土地問題が切迫していることを考えると、理論的な正当化だけでなく、個々の具体的な場面(都市計画・自然保護・記念物保護など)に即した上での正当化が必要である。
 この点についてドイツ法を参照したところ、さまざまな手がかりを得ることができた。第一に、公法的制限から見れば、ドイツの判例の中で自然保護や記念物保護のための土地所有権制限の論理が確立されている。近年では、この論理の根拠付けをめぐって学説の議論も起きている。そこで、上記問題関心からすれば、具体的な場面を想定して確立されてきたドイツの判例理論とその学説には、学ぶべき点が大いにあると思われる。第二に、私法的制限から見ると、ドイツの相隣法(イミッシオーン法)の発展が重要である。ドイツ民法典906条の要件を柔軟に解釈することによって、社会情勢や政策に適合するような形で土地所有権の調整がなされてきた。このような形でドイツ民法典は国土形成や都市形成に重要な役割を果たしてきたと評価でき、かかる分析のなされていない日本法にとってはきわめて重要と思われる。第三に、第二とも関係するが、私法的制限と公法的制限との接点ともいうべき問題がある。国土の形成という同一の目的を持ちながら、それを果たすための手段としては都市計画と民法の相隣法(より具体的には民法上の請求権)の二つが存在している。都市計画をある程度尊重することについては共通認識があるものの、それでは民法の果たすべき役割はどこにあるのかが問題となってくる。
 以上のように、本年度の研究成果は、上記研究課題についてドイツ法から学ぶべき点を抽出したにすぎないと言えよう。したがって、さらにそれぞれの論点について深い分析をすることが今後の課題である。なお、公法上の制限が近年増大しているにもかかわらず、私法の視点(土地所有権間の調整という考え方)を再確認すべきという指摘が日本においてなされていることに鑑みると、特に第二・第三の論点について日本と比較しつつドイツ法の調査・研究を進めていく必要があると考えられる。そのため、1998年度の特定課題研究では、このうちの第三の論点に絞って研究を進める予定である。
 なお、本年度の研究成果は1998年度・1999年度の申請者による研究の基礎となっており、成果の公表もそこにおいてなされた。