表題番号:1997A-506 日付:2002/02/25
研究課題近代における政治論の発展に対する古典的軍事論の寄与について―東西の比較思想史的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 笹倉 秀夫
研究成果概要
本研究の目的は、西洋において、古代に発達した軍事論が近世・近代において再発見されたことによって、近代における政治的な思考の発達を促したのみならず、とりわけその軍事論において重要であった「紀律」の観念が、国家生活と社会生活の新しい組織化の原理ともなり、近代化に寄与したこと、そしてこの展開構造が東洋においても見られることを明らかにし、その意味を考察しかつそれによって西洋と東洋の近代化論についても新たな視点を提起することにある。
 その際、報告者のこれまでの研究をふまえて、研究の重点を東洋の軍事・政治思想の分析に置き、孫子をはじめとする中国の古典的軍事論の分析、それが当時の荀子や韓非子らの法・政治思想と対比してどういう特徴をもっているかの考察、日本近世における軍事思想との比較、江戸時代における、孫子や荀子、韓非子の受容(とりわけ荻生徂徠の思想が重要である)の分析、およびこれらの考察を連関付けて古代軍事思想と近世政治思想の関係の分析を進めること、を課題にする。
 1997年度は、このテーマのもとに、孫子および韓非子関係の文献を集中的に読むとともに、日本近世の軍事・政治思想を、武家の家訓書・『甲陽軍鑑』をはじめとする軍事・政治思想書を考察し、古典的軍事論との比較を行なった。しかし、新任直後の1年であったので、これらをまとめるには至らなかった。今後の課題として、以上の考察をさらに進めることと、それらを踏まえて、荻生徂徠の『孫子国字解』等の構造の分析とそれらの軍事論、そしてその背景にある古代の軍事・政治論が荻生徂徠の政治思想の形成上に有した意味を考察する作業、及び、これらの考察の集約の上に立って、西洋における近代政治思想の形成の構造と東洋におけるそれとの比較を行なう作業が、残っている。