表題番号:1997A-505 日付:2003/05/23
研究課題国際取引における特許侵害をめぐる国際私法上の諸問題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 木棚 照一
研究成果概要
国境を越えた、物品、金銭・資本、技術の移転、役務の提供等を内容とする取引を国際取引というとすれば、特許権は、次のように国際取引と関わることが少なくない。特許権が各企業の重要な競争力の要因となっている現在、特許権侵害という主張をして他社の競争製品を排除しようとする傾向が強まるだけではなく、伝統的に認められてきた特許権の属地性や製品の製造に関わる点で単なる標章を対象とする商標権と異なることなどを理由に、自社の特許製品であっても外国で拡布された製品が内国に輸入される場合にはこれを排除し、各国市場を分断的に支配しようとする傾向が生じる。とりわけ、後者の傾向との関係で、従来わが国ではそれほど本格的な議論もなく特許権の行使による特許製品の並行輸入の排除を認めるべきものと考えられてきた。しかし、平成7年2月23日の東京高裁のBBS事件判決で特許権の国際消尽論を認め、また、この事件の上告審判決である平成9年7月1日の最高裁第三小法定判決は、控訴審判判決とは異なる黙示的許諾論をとりながら、結局特許権による特許製品の並行輸入の差止を否定し、控訴審判決の結論を維持した。
 本研究では、特許権の国際的保護の強化が望ましいことを認めながら、同時に特許権者の利益と公共の利益の調和をはかるため特許権のおよぶ物的範囲を合理的に制限すべきとする視点から、BBS事件の最高裁判決を控訴審判決と対比して詳細に検討し、この判決の位置づけ、射程距離、問題点を明らかにするよう努めた。最高裁判決は高裁判決の国際消尽論を否定してはいないこと、確かに黙示的許諾説によると、事件の具体的状況、製品の種類の相違などを考慮した柔軟な解決を可能とする側面があるが、製品への日本への輸出禁止の表示という一点に絞り込むところがあるだけに国際消尽論をとった場合より広い範囲で特許権の行使を制限する側面があること、本件があくまで表示のない事例で結論としては国際的消尽論をとると同じ結論に達し得る事例であったこと、国内消尽についても当初黙示的許諾説が有力であったが、それを克服して消尽論が有力になったこと、わが国の国際消尽論の根拠及び消尽の要件についてはなお検討を深めるべきところが残されていることなどを明らかにして、本件最高裁判決が国際消尽論に至る過渡的段階にあることを確認した。本研究の成果は、1997年9月19日の大阪における社団法人商事法務研究会主催の講演会、同年10月31日の南甲弁理士クラブ研修部の講演会、1998年6月に東京、大阪、名古屋の各地で予定されている日本弁理士会研究所主催の講演会で既に発表し、または、発表を予定しているが、論文の完成については1998年中を目指している。なお、本研究の副次的成果ともいうべきものとして次のものが挙げられる。(1)知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)のわが国特許法への影響をはじめとする3編の小論文(紋谷暢男編『特許法50講(第4版)』有斐閣、1997年12月)(2)特許侵害訴訟でも被告側からしばしば抗弁として出される発明の未完成と優先の利益の否定に関する東京地裁平成5年10月20日判決の研究(発明1997年9月号掲載)(3)「意匠に関する国際私法上の諸問題」『知的財産権法の現代的課題(紋谷暢男教授還暦記念論文集)』(発明協会、1998年3月)所収
研究成果の発表
1999年3月(予定)「特許製品の並行輸入に関する一考察―BBS最高裁判決を契機として―」早稲田法学