表題番号:1997A-380 日付:2002/02/25
研究課題量子ビート検出によるイオン対の再結合過程と電子状態の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学総合研究センター 教授 浜 義昌
研究成果概要
種々の溶液中に放射線照射によって生成するイオン対の再結合過程はそのイオン対のスピン状態(一重項および三重項状態)の相関を知る上で重要である。
いままで、磁場中での種々の無極性溶媒中でのイオン対再結合過程を量子ビートの観察によって検討して来たが、本年度はいままでほとんど検討されていなかった極性溶媒中でのイオン対の挙動について検討した。
 今回の研究においてはホールアクセプターとしてdiphenylsulfide(DPS)、電子アクセプターとしてper-terphenyl-d14(PTP-d14)を用いた。照射線源としては10µ Ci90Srを用いた。
 種々の磁場中においてシングルホトンカウンティングシステムによって再結合時の蛍光減衰を観測した。
 極性溶媒中においては、その再結合過程の複雑さから、量子ビートの観測は無理と思われたが、アルコール系溶媒を除いてg-因子メカニズムによる量子ビートを観測することができた。
アルコール系においては電子の溶媒和過程の影響がその再結合過程に大きな影響を及ぼしていることが考えられる。また、量子ビートの振幅は溶媒によって異なってくる。
 これは再結合時のイオン対集合体の位相相関がそれぞれ溶液によって異なっていることを示している。この位相が完全に失われるときには量子ビートは観測できない。
 これらを体系的に整理することができた。また、これらの系に対する光検出電子スピン共鳴(ODESR)の観測を行いg-因子を求めることによって量子ビート周期の妥当性を検証した。
 いっぽう、量子ビートが観測できる極性溶媒を混合した溶液系における量子ビート観測を行った。この場合、混合比においてどちらかの溶媒が圧倒的に多い場合には量子ビートが観測されるが、混合比が5%を越えると観測できなかった。
 この相乗効果は興味ある現象であり今後も種々の系において検討を行う必要がある。
 今後の課題としては、より広い範囲の磁場中での量子ビートの観測を行い、イオン対再結合時のスピン相関について詳細な検討を行っていく予定である。
研究成果の発表
1. 1997.10, 第40回放射線化学討論会、「量子ビート検出によるラジカルイオン対の再結合過程」
2. 1997.10, 第40回放射線化学討論会、「スピントラップ剤添加溶液におけるラジカルイオン対再結合過程の研究」
3. 1998.1, 第35回大阪大学産業科学研究所放射線実験所研究会―短パルス量子ビームによる化学過程の解明と応用―、「量子ビートによるイオン対再結合過程」