表題番号:1997A-371 日付:2002/02/25
研究課題父親・母親における子との一体感の発達行動学的研究:離乳食場面における共感反応の発現を通じて
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 助教授 根ケ山 光一
研究成果概要
本研究は、親から子への食供給場面において、親が子の摂食と同時に摂食様行動を自らの口唇部に浮かべるという共感反応の発現が父親と母親で異なるかを調べ、それによって子との一体感の性差を測ることを目的とした。21組の父親(平均33.5歳)・母親(平均29.0歳)による乳児(7~10か月齢、平均7.4か月齢)への離乳食供給場面が家庭でビデオ撮影された。撮影は、父および母それぞれがあらかじめ定められた順序にしたがって、(1)自分自身(父または母)による乳児への食供給、(2)もう一方の親(母または父)の食供給下での近傍(乳児から約0.5m分離)および(3)遠隔(約1.5m分離)からの傍観、の3条件の距離において、最低5匙の供給に対して行われた。その映像から、父・母が(1)(2)(3)それぞれにおいてどの程度共感反応を発現させるかが分析された。その結果、共感反応は(1)では父親の62.9%、母親の71.4%、(2)ではそれぞれ28.6%と32.4%、(3)では15.7%と22.4%の供給に対して発現しており、とくに自ら供給する事態で多発することがわかった。父母間にはいずれの条件も有意差はなかった。場面差については、反復測定分散分析によれば父母ともに有意であり、とくに(1)と他の条件間での落差が大きかった。その傾向は、共感反応のうちでも大きく口が動く明瞭な行動により顕著だった。母親の母乳哺育期間・子の出生順位と母親の共感反応には有意な対応がなかった。一方、父親の普段の育児参加について、おむつ換え・入浴・散歩・寝かしつけ・給食の5項目にわたって尋ねた結果を共感反応の頻度と相関させたところ、有意な対応はほとんどなく、入浴とのみ有意な正の対応が見られた。日頃の食供給の経験の多寡は共感反応に影響しなかった。なお、子の性と距離条件の2要因分散分析からは、子の性の主効果は父・母ともに有意でなかったが、母親の明瞭な共感反応においてのみ、女児ではほぼ(1)に集中していたのに男児には(2)でも見られるという有意な交互作用が指摘できた。このように、共感反応を指標にしたところ、父親と母親の間では一体感に大きな差はないことが明らかにされた。