表題番号:1997A-314 日付:2002/02/25
研究課題光機能性分子の光化学:光励起種の構造とダイナミックス
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 高橋 博彰
研究成果概要
ニトロ基をオルト位にもつベンジル化合物は、光照射によりメチレン基の水素原子が可逆的に分子内移動を起こすことにより、フォトクロミズムを示すことが知られている。この研究の目的は、オルト・ニトロベンジル化合物のうちで、水素原子を受容することのできる位置を複数個もつ化合物について、分子内水素移動の機構を明らかにすることである。
 2-ニトロエチルベンゼン(NEB)、2-(2'-ニトロベンジル)ピリジン(2-NBP)、4-(2'-ニトロベンジル)ピリジン(4-NBP)2,4-ジニトロエチルベンゼン(DNEB)、2-(2',4'-ジニトロベンジル)ピリジン(α-DNBP)、4-(2',4'-ジニトロベンジル)ピリジン(γ-DNBP)の時間分解ラマンスペクトル及び時間分解紫外・可視吸収スペクトルを溶液中で測定した。これらすべての化合物で、紫外光照射による光化学反応は、最低励起一重項状態S1B>において、ニトロ基がオルト位にあるメチレン基の水素原子を引き抜いてオルト・アシニトロ酸を生成することによりスタートすることがわかった。極性溶媒中ではこのオルト・アシニトロ酸はオルト・アシニトロアニオンとプロトンに解離し、プロトンはプロトン受容能のあるパラ位のニトロ基、2-ピリジル基や4-ピリジル基の窒素原子と結びついて、パラ・アシニトロ酸あるいはN-Hキノイド異性体を生成する。無極性溶媒中ではアシニトロ酸は解離せず、アニオンもN-Hキノイドも生成しない。
 NEBとDNEBのニトロ形およびアシニトロ形の異性体およびこれらのアニオンについて、分子軌道計算による構造最適化及び基準振動計算を行った。分子軌道計算にはDFT/B3LYP法を適用し、6-31+G*基底関数を使用した。アシニトロ酸及びそのアニオンの最適化構造は過渡共鳴ラマンスペクトルから予想される構造と良い一致を示した。また、基準振動の計算結果は実測の振動数とよい一致を示した。
研究成果の発表(印刷中)
Laser Chemistry, Photoinduced Intramolecular Hydrogen Transfer Reaction of Ortho Nitrobenzyl Compounds