表題番号:1997A-313 日付:2002/02/25
研究課題長期間安定して測定の可能な血糖センサの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 酒井 清孝
研究成果概要
人工膵臓用皮下留置型グルコースセンサの実現を阻む最大の問題点は、センサ表面への線維芽細胞の付着やタンパク質の吸着により、センサにグルコースが拡散しにくくなり、実際よりも低い濃度が検出されてしまうことである。この問題解決のために、我々はセンサ表面に固定したグルコース酸化酵素の活性をON-OFF制御し、酵素固定膜内の濃度勾配の小さい過渡状態で測定する方法を試みた。酵素活性をOFF状態にすればセンサでグルコースが消費されなくなるので、センサ表面のグルコース濃度を均一にできる。この状態で再び酵素活性をON状態にして濃度勾配の小さい過渡状態で測定すれば、付着や吸着の影響を受けずに測定できると考える。酵素活性を制御しながら過渡状態で測定した場合に、リン酸緩衝水溶液中でグルコースの濃度変化に対して応答するかを検討したところ、グルコース濃度と応答電流に相関が観察された。次に、過渡状態で測定する方法と酵素活性を制御せずに定常状態で測定する方法を用い、ヒト血清アルブミン水溶液中とリン酸緩衝水溶液中の検量線を比較した。その結果、連続測定ではどちらの実験でもタンパク質吸着により応答電流は大きく低下したが、ON-OFF測定では応答電流はほとんど変化しなかった。また、ウシ血漿中で480minの間グルコース濃度を測定し、応答電流の経時変化を比較した。定常状態での測定と過渡状態での測定を比較すると、定常状態では90 minの測定値に対して480 minの測定値は約70 %低下しており、過渡状態での測定では、100 minの測定値に対して480 minの測定値はほとんど変化しなかった。定常状態での測定における応答電流の低下は、酵素固定膜表面への血漿タンパク質の吸着のためと考えられる。過渡状態での測定においてもセンサ表面にタンパク質は吸着しているが、酵素活性をON-OFF制御しながら過渡状態で測定することにより、グルコース濃度に対するタンパク質吸着の影響を阻止できたと考える。