表題番号:1997A-311 日付:2004/11/18
研究課題シフトバリアント劣化像のブラインド・デコンボリューション
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 小松 進一
研究成果概要
結像光学系によって形成された画像(劣化像)は、光学系のインパルス応答である点像分布関数 (psf) と物体(原画像)とのコンボリューションで記述されることが多い。このとき、劣化像のみから原画像を推定する逆問題をブラインド・デコンボリューション(以下BD)という。筆者はこれまで、フーリエ反復型BDアルゴリズムを実画像に適用する際の諸課題について検討する一方、顕微鏡の3次元psfの推定問題にも着手してきた。
 フーリエ反復型BDアルゴリズムでは、像面位置によるpsfの形状変化がないこと(シフトインバリアント性)を仮定している。しかし、この仮定は望遠鏡画像等では比較的妥当であるが、顕微鏡画像や一般のカメラ画像に対しては厳密には成立しない。現実の画像回復においては、psfが未知でシフトバリアントな場合がほとんどであり、このような場合に適用できるBDアルゴリズムの構築は、画像回復を現実に適用できる範囲を拡げる上でも重要である。
 本研究では、2次元画像を1次元の列ベクトルで表し、像面の各点における点像分布関数(psf)の集合をまとめた psf行列をこれに掛けることによってシフトバリアント光学系の結像特性を表現し、この関係から、行列演算に基づく新しいBDアルゴリズムを構築した。このアルゴリズムでは、推定psf行列の逆行列を掛ける演算と推定原画像行列の逆行列を掛ける演算とを交互に反復している。 ところで、psf行列を推定するためには、画像の画素数をM=N× Nとして、M種類の原画像を用意しその劣化像を観測する必要がある。また、原画像の一時独立性が強くない場合には逆行列が存在しない場合がある。これらの困難を克服するために、特異値分解に基づいて求めた疑似逆行列を利用する方法についてコンピューターシミュレーションにより検討し、原画像の種類が少ない場合にも本方法が適用できることを確認した。
 現実の光学系を用いて実際に形成した劣化像をCCDカメラを用いてワークステーションに取り込むシステムを完成し、この撮像データを使ってBDアルゴリズムの実用性を検討している。今後、顕微鏡画像などへの適用を計画している。