表題番号:1997A-297 日付:2002/02/25
研究課題ファイリング制度の実証分析:時価情報の有用性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 助教授 河 榮徳
研究成果概要
日本におけるファイリング制度は、適時のディスクロージャーを通じて資本市場の透明性を高めるためることを目的に1989年4月から実施されている。証券取引所に上場している企業は、経営上の重要事項が生じたとき、速やかに上場証券取引所にその内容をファイリングしなければならない。ファイリング対象事項は、決定事項、発生事項、決算発表などに分類され、毎年1万件以上ファイリングされている。
 近年、金融機関において、時価をベースに動く金融取引や金融派生商品の取引の比重が飛躍的に増大しており、それに伴うマーケット・リスク管理の重要性が高まっている。伝統的な原価評価・実現基準に基づく会計情報は、それら金融商品のリスクの評価に役に立たないし、ロスカットの遅れや過度なリスク・テイクのような、不合理な企業行動を誘発する可能性も指摘されている。そこで、本研究に着目し、その含み損益の情報効果を分析することによって、ファイリング制度が有効に機能しているかを実証的に検証した。
 検証すべき仮説は、次の2つである。(1)時価情報(含み損益)は株価に影響を及ぼすと予想される。(2)時価情報(含み損益)と株価には正の関係が予想される。
 研究対象サンプルは、東京証券取引所に上場している銀行の1991年3月決算から1997年3月決算まである。分析方法は、(1)時価情報の公表時点のイベントスタディと(2)時価情報の追加的説明力を確認するための重回帰分析である。イベントスタディでは、時価情報の公表時点における株価(期待外収益率)の反応を分析した。重回帰分析では、株価(期待外収益率)に対する説明変数として、業績変数(経常利益の変化率と純利益の変化率)、不良債権貸出比率、含み損益額、および含み損益変化率を用いた。
 分析結果、仮説を支持する結果が得られた。(1)イベントスタディの結果、時価情報の公表は、株価に有意な影響を及ぼしていることが確認された。重回帰分析の結果、業績変数(経常利益の変化率と純利益の変化率)と含み損益変化率の回帰係数は、有意に正(+)であった。また、不良債権貸出比率の回帰係数は有意に負(-)であった。