表題番号:1997A-285 日付:2002/02/25
研究課題ドイツ公的介護保険制度に見る介護制度の経済学的、経営経済学的検討―社会政策と市場メカニズムの関係についての一考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 助教授 藁谷 友紀
研究成果概要
ドイツの公的介護保険制度は1995年に第一段階(在宅介護)、1996年に第二段階(施設介護)に入った。介護制度の運用とサービス給付の実態の中で、制度見直しが論じらてれおり、その主要論点は、1)介護サービス給付内容に関わる問題と、2)財政負担問題に分けられる。
1)介護サービス内容の具体的問題点は、以下のようにまとめることができる。
・従来システムと比較したときの介護サービスの質量の低下
・給付水準と必要水準の乖離
・介護技術者の不足とその養成・教育
・介護判定
 介護判定問題では、申請判定者(医師)の介護実態についての理解が問われ、また旧東西ドイツ間での申請却下率の相違が問題となっている。その他の問題点は、公的介護保険制度が掲げる、市場システムの活用、競争原理の導入に関わっており、民間介護給付サービス会社のサービス給付と公的介護保険制度が認める給付水準間の乖離が問題とされている。他方、公的介護保険制度が提供する介護サービスの質量は、その財源、すなわち2)財政負担の問題に密接に関わる。
2)財政問題として、「共通の記憶喪失」と非難される介護施設投資の遅延問題、すなわち連邦政府と州・地方政府間の財政負担をめぐる対立、あるいは連邦省庁間の対立が指摘される。それら行政組織上の財政問題の根底には、財源上の制約、すなわち国民負担の規模と負担配分の問題がある。意見・立場の相違は「使用者負担補償問題」として政治対立化し、システム成立前の長い論争を経た後、なお現在も依然として主要対立点として位置づけられている(例えば「Gutachtenに見るドイツ公的介護保険制度―経済学的、経営経済学的分析を通した制度と論点の検討」貯蓄経済理論研究会年報 vol.12, 1997参照)。
 「使用者負担の増大が企業の国際競争力を弱め、ドイツ経済自身を弱体化させる」との命題をめぐる対立は、公的介護保険制度成立時に棚上げされ、五賢人会に経済学的検討、経営経済学的検討が委ねられた(公的介護保険法)。五賢人会の特別報告に従う形で第二段階の実施形態が定められ、制度的解決がなされた。しかし、「企業実態調査」は繰り返し企業の過重負担を指摘し、制度改変を主張している。また、五賢人会がその特別報告の中で提言した被保険者全額負担システムへの移行についての本格的議論は始まったばかりである。
 ドイツの介護保険制度についての論議は、保険制度全体、社会保障制度全体についての論議として広がりを見せている。そこでは、制度の位置づけが、市場経済全体の枠組みの中で、経済学的、経営経済学的に検討されている。我が国の論議の現状を見たとき、示唆するところは大きい。
研究成果の発表:研究成果の一部は次の論文で発表:発表年月1997年9月:「社会動態・経済動態のなかのドイツ社会保障制度―公的介護保険制度に見る高齢化社会への対応」渡辺重範編『ドイツハンドブック』所収早稲田大学出版部