表題番号:1997A-263 日付:2002/02/25
研究課題中世都市フランクフルトとライン・マイン流域の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 小倉 欣一
研究成果概要
中世都市は、市民社会と市場経済の原理が先駆的に実現した場であり、近代民族国家の枠を超えた現代ヨーロッパの統合運動のなかで歴史的意義が増しています。わたくしは、前任校に在職中から、ドイツの代表的商業・金融都市であり、最近ヨーロッパ連邦中央銀行の所在地となったフランクフルト・アム・マインを事例として経済史・社会史および政治史・法制史の両観点からの研究を続けてきました。1995年早稲田大学に着任して以後、1996年度の本助成費によって既発表の諸論文の補訂にかかるとともに、フランクフルトとそれを取り巻くライン・マイン流域との関わりに視点を移し、中世後期の「封建的危機」といわれる状況のなかで、大市特権により繁栄するこの「帝国自由都市」と、街道で隊商への略奪を繰り返す、近隣の貧困化した「盗賊騎士」との闘争(フェーデ)についての研究を開始しました。
 1997年度の助成費では、夏休みに早大ヨーロッパ・センター(ボン)を利用しボン大学の図書館、ライン地域史研究所、フランクフルト市立文書館にてこの問題に関する多くの文献・資料を収集し、とりわけフランクフルト市民軍による1389年のクロンベルク城と1399年のタンネンベルク城に対する攻略について実踏調査をおこない、比較考察を進めております。その際、従来の中世都市研究いは欠けていた戦争史・軍事史の観点を導入してみると、前者では火器(銃、大砲)という新たな軍事技術がほとんど利用されていなかったのに比べ、10年後の後者ではまさにこの新兵器の性能が勝敗を決したことがわかりました。これが最大の成果であり、さらに皇帝・諸侯と都市による平和の盟約(ラントフリーデ)という中世国制史上の重要な課題に迫りたいと思っております。
研究成果の発表
1997年10月31日 早稲田大学アジア太平洋研究センター(旧社会科学研究所)ヨーロッパ思想史部会にて口頭報告「盗賊騎士の名誉と帝国都市の自由――中世後期フランクフルト市民の二つのフェーデ――」