表題番号:1997A-262 日付:2002/02/25
研究課題清水幾太郎とその時代―自伝の索引づくりと関係者へのインタビュー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 大久保 孝治
研究成果概要
本研究の目的は、社会学者であり、戦後日本のオピニオンリーダーであった清水幾太郎の81年間のライフコースを綿密にたどりながら、明治・大正・昭和の日本社会の変動を、各時代の社会・経済・政治的状況を背景として、知識人と大衆の意識と行動の側面から分析することにある。研究は3年計画で、今年度はその最初の年にあたる。今年度の研究実績の中心は、人生の異なる時期に書かれた清水の3冊の自伝(『私の読書と人生』1949年、『私の心の遍歴』1956年、『わが人生の断片』1975年)の合成作業である。すなわち、3冊の自伝をテキストファイル化し、同じ項目(出来事、人物、団体、書物など)に関する記述をひとまとめにして、1冊の「合成自伝」を編集した。この過程で、自伝的事実をめぐるいくつかの興味深い異同が明らかになった。これは自伝(生活史)というデータの本質的特徴の1つである「状況規定性」、すなわち「現在」の状況によって語られる過去の物語の内容が変容することを実証的に示すものである。「合成自伝」の編集と同時進行的に自伝の索引作りを行なった。索引項目は社会的出来事(関東大震災や安保闘争)、個人的出来事(結婚や父親の死)、人物(大杉栄や三木清)、団体(昭和研究会や平和問題談話会)、書物(立川文庫や有本芳水詩集)など多岐にわたる。しかし、それらは決してバラバラにあるのではなく、「清水幾太郎」という個人を中心にして有機的に統合されているのである。自伝の分析とは、その統合のメカニズムを解明することにほかならない。現在、この課題に向けて、個々の索引項目について資料を収集中である。とくに、清水とかかわりのあった人物で、生存中の方々にはインタビュー調査を実施している。