表題番号:1997A-254 日付:2002/02/25
研究課題日本に於ける仏典受容(2)―栂尾明恵上人の講式―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 専任講師 ニールス・グュルベルク
研究成果概要
今回の計画は、貞慶(前回のテーマ)の弟子であり、鎌倉仏教の代表者の一人でもある明恵上人の講式を、テーマとするものであつた。敢えて自宗派を構えることをしなかった明恵は、他の所謂鎌倉仏教の始祖達とは異なり、仏教史の上からは、旧仏教側の一人とされるだけで、必ずしも正当な評価を受けてこなかった。しかし最近では、他の鎌倉仏教の始祖達には見られない、その独自な宗教性が注目されるようになり、彼の属していた宗派の中だけではなく、広く宗派を超えて、極めて優れた宗教家として認められるようになって来ている。彼が作った講式もまた、日本中に広く流布していたのであり、それが今日まで伝えられて来たのである。明恵の講式は、明恵の思想を知る為の最も重要な資料である。明恵は貞慶と並んで講式作者の頂点に立つ人物であって、現在判明しているところでは、講式23点に明恵の名が付されているが、その中の少なくとも16点が明恵の真作と思われている。
 明恵の講式は、主に三つのグループに分けられる。即ち〔1〕釈尊に関する講式(6点)、〔2〕経典に関する講式(5点)、〔3〕神祇その他に関する講式(5点)である。その中、〔1〕と〔3〕に関しては、今回の研究期間以前に既に研究結果を発表しているので、今回は〔2〕を中心に研究を発展させた。
 〔2〕の経典に関する講式の中では、『華厳経』に関するもの(2点)が特に重要である。明恵は伝統的分類に従えば、一応華厳宗の僧侶であった関係上、他の講式にもよく『華厳経』を引用しているので、この二つの作品(『持経講式』と『五十五善知識講式』)を注釈すれば、他の講式作品の中の『華厳経』引用についての理解も、より深めることができるのである。今回の研究期間中に研究成果を発表することができたのは、『持経講式』に関してである。『五十五善知識講式』に関しては、目下研究成果をまとめつつある段階にある。
研究成果の発表:
1998年1月 東京、Transactions of the International Conference of Eastern Studies No. XLII 1997, p. 136, “The Venerable My(e of Togano'o (K(ben) and His K(shiki”(要旨)
1998年3月 東京、大正大学綜合仏教研究所年報第20号、1- 28頁、「明恵作『持経講式』について」