表題番号:1997A-250
日付:2002/02/25
研究課題ダダ・シュルレアリスムの起源を求めて(20世紀アヴァンギャルド成立過程の研究)
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 法学部 | 教授 | 塚原 史 |
- 研究成果概要
- 本研究は20世紀初頭のヨーロッパに出現したアヴァンギャルド芸術運動を切断と接続という二つの異なる位相からとらえなおすことで、その成立過程をあきらかにするという目的意識を出発点としていた。すなわち、過去の伝統(とりわけ市民革命と産業革命を起点とし、理性的主体としての個人という概念装置を主軸とした「近代」の諸結果)からの切断の意思において際立っていたアヴァンギャルド諸派が、じつはその成立条件のある種の部分がほかならぬ彼らの「過去」に接続していたのではないかという発想が前提になっていた。具体的対象としてはトリスタン・ツァラによるダダとアンドレ・ブルトンによるシュルレアリスムをとりあげ、前者に関してはツァラがチューリヒでダダ運動を始動させる以前のルーマニア時代を、また後者に関してはブルトンのパリ大学医学時代を中心に研究を展開することになった。したがって、ツァラの生地であるルーマニアのモイネシュティ市にツァラ文学協会を訪ね、資料の収集と現地の研究者との意見の交換を行うことが今回の研究の大きな部分を占めていたが、1997年9月に2週間ほど現地調査をおこない、ツァラ(本名サミュエル・ローゼンストック)の出自と彼自身の精神形成過程に関して未発表の資料もふくめた豊富なドキュメントを収集し、また東欧革命以後のルーマニアの文化状況とダダ研究との関わりにまで踏みこんだ活発な意見の交換を現地の研究者と行うことができた(現地を訪れた日本からの研究者は私がようやく二人目だったということだ)。同協会を主催するヴァシーレ・ロブチック氏(Monsieur Vasile Robciuc)にはこの場を借りて感謝の意を表しておきたい。現地調査から得られたとりあえずの結論は、ダダの反近代性が近代社会の最先端での閉塞状況から生まれたというよりは、逆にヨーロッパでもっとも「近代化」の遅れた部分の一つから近代の中心へと移動した若者のいわば神経症的な反発をある種のきっかけとしていたという《アヴァンギャルドの逆説》であった。(この問題については、1998年2月に京都大学人文科学研究所主催アヴァンギャルド研究会で口頭発表を行った。)第二の問題、すなわちシュルレアリスム依然のブルトンと精神医学の実践との関係については、残念ながら予定していた現地調査の物理的条件が今回は整わなかったことを報告しておく。
研究成果の発表
1998年2月 アヴァンギャルドの逆説(京都大学人文科学研究所)にて口頭発表
1998年7月(予定) 記号と反抗(著書)人文書院
1999年4月(予定) トリスタン・ツァラ(著書)せりか書房