表題番号:1997A-245 日付:2002/02/25
研究課題非線形関数を用いた景気循環理論の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 助教授 笹倉 和幸
研究成果概要
景気循環理論は大きく外生的理論と内生的理論に分かれる。前者では通常線形方程式モデルが用いられるが、モデルの均衡点は安定である。もし外力がなければ、経済は均衡点から離れてもやがてはまたその均衡点に戻ることになる。そのようなモデルに周期的な動き(景気循環)が発生するためには外力、特に不規則衝撃が必要とされてきた。それに対して後者のモデルは非線形方程式からなり、その均衡点は不安定である。経済は不安定な均衡点から次第に離れていくがモデルの非線形性から発散することはない。モデルが2次元の微分方程式系ならば、ポアンカレ=ベンディクソンの定理を適用することにより、外力がなくとも周期解(景気循環)の存在を厳密に示すことができる。
 従来の景気循環理論は以上のような2つの考え方が対立した形で発展してきた。しかしながら、そのどちらが現実をより正確に描写しているかは実証的にも極めて難しい問題である。そこで、両者を二者択一的にとらえるのではなく、それらを統合するようなモデルの可能性を探ることを本研究における主な目的とした。その解決の鍵はポアンカレ=ベンディクソンの定理とホップ分岐定理の併用にある。この2つの定理はいずれも内生的理論を基礎付ける手段として単独で用いられてきたが、併用するという考え方は少なくとも景気循環理論においてはなかったと思われる。こうして得られたモデルでは、均衡点は安定であるにもかかわらず、そのまわりに安定な周期解(リミットサイクル)が存在する。そして経済の初期状況によって、外生的理論あるいは内生的理論が想定するどちらの状況でも記述可能となる。
 1997年度ではこの考え方を以下の研究成果として発表した。
・ 「経済動学の方法(Ⅰ)」『早稲田政治経済学雑誌』第330号、pp.145-188。
・ 「経済動学の方法(Ⅱ)」『早稲田政治経済学雑誌』第331号、pp.223-254。