表題番号:1997A-210 日付:2004/03/31
研究課題不安定原子核のベータ崩壊および原子核質量の研究とr過程元素合成への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 橘 孝博
研究成果概要
本研究では、陽子数と中性子数を変数として原子核を並べた平面上で安定核領域から遠く離れた、不安定核領域にある原子核を対象として、主にそのベータ崩壊に関する研究を行った。 この領域にあると考えられる原子核については実験値がなく、またあっても不十分なデータしか揃っていないのが実情である。 そこで理論的な研究が特に必要とされる。
 これまで我々早稲田グループでは「ベータ崩壊の大局的理論」を用いてベータ崩壊の強度関数を理論的に推定してきた。 このモデルを用いて計算したベータ崩壊半減期や遅発中性子放出確率を使って、r-過程元素の存在量を推定し、太陽系での観測量と比較した。 その時に必要なQ値や中性子分離エネルギーは、我々早稲田グループで開発した原子質量公式TUYYを改良して求めた値を用いた。 この合成過程を時間発展で追い、コンピュータ グラフィクスで視覚化し、さらにビデオに収めた。 これは、理化学研究所との共同プロジェクトであり、このr-過程の部分は一応完成させることができた。
 原子力工学の分野では崩壊熱計算の解析も行った。核分裂後に放出される崩壊熱は、理論的推定値と測定値の一致が一般的に良いと言える。しかし、その中で崩壊後1000秒あたりには有意な違いが見られる。 この理由も「大局的理論」等を用いて解析し、現在論文としてまとめつつある。
 「大局的理論」を改良した「半大局的理論」も、一応のモデル化に成功した。 しかし、このモデルで遅発中性子放出確率の計算をし、実験値と比べるとその値が小さい傾向にあることが分かった。 これは推定される強度関数の大きさに問題がある。 これは、強度関数を適当なエネルギー領域で平均化することで解決できる見込みである。
研究成果の発表
(1) H.Nakata, T.Tachibana and M.Yamada, Nuclear Physics, A625 (1997) 521
(2)T.Tachibana, H.Nakata and M.Yamada, Proc. Tours Sympo. on Nuclear Physics III, American Institute of Physics, p.495