表題番号:1997A-207 日付:2002/02/25
研究課題インドネシアにおける土器づくり村とその技術の調査
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 助手 余語 琢磨
研究成果概要
1997年8月、伝統的土器の製作技術と作り手の生業を研究目的として、インドネシア共和国バリ島カランガスム(Karangasem)県西部のジャシィ(Jasi)村において調査を行った。
 製作技術 同村の技術的特徴が最も表出するのが、大型水甕(gombang)である。まず粘土を掌で短冊状に伸ばしながら横に接合して作った粘土板を円筒形にし、これを回転台上でタタキ板で叩いて膨らまし、さらに2回の乾燥・タタキ成形工程を経て、肩の張った完成形とする。前半段階の「板作り円筒技法」は東南アジア全域からみて希少な技術で、ジャシィ村においても現在数家族しか保持していない。この失われつつある技術を、記録保存した意義は大きい。焼成技法は野焼きで、乾期で月3回、雨期で月1回焼成する。
 価格・流通 旧カランガスム王宮前の中央市場の商人が仲買いし、他村の人は市場から購入する。水甕の価格は、同村でRp.6,000、商人への卸値がRp.10,000、市場ではRp.13,000~15,000ほどである。流通圏は旧カランガスム王国域に相当し、植民地化から100年ほど経つ現在において、隣県の市場の方が近い県境の村におよぶことから、伝統的土器の流通や需要は、経済効率よりおもに文化的な規制力に基づいていると考察された。
 土器作り村の生活 同村において土器作りに直接携わるのは女性のみで、多くの家が椰子・バナナ等の栽培、豚・鶏の飼育などの農業を兼ねている。父系制ゆえに女性は婚姻とともに実家を出るが、村内婚も多いようで、他村に嫁いだ者が土器を作ると壊れるとの伝承と相まって、技術は村内で継承される。土器作りにおける強いタブーはなく、祖先祭祀などの準備期間と祭礼日を除いてほぼ毎日作業が行われるが、雨期は生産量が減少する。
 本調査は98年度も継続されるが、隣接地域の土器作り村へ調査対象を広げるとともに、環境・食生活・他の生業・価値観などとの関連を一層明確に解明していく予定である。
研究成果の発表
平成10年3月31日 余語琢磨「研究報告要旨 インドネシア・バリ島の土器作り」『ASIAN LETTER』第2号、東アジアの歴史と文化懇話会
平成10年5月 余語琢磨「インドネシア・バリ島の土器作り―伝統的土器の製作技法を中心として―」『土曜考古』第22号、土曜考古研究会