表題番号:1997A-205 日付:2002/02/25
研究課題脳の準備電位による運動学習過程の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 助手 正木 宏明
研究成果概要
脳波を随意運動の開始時点に揃えて加算平均すると、運動開始前約2秒から陰性方向に緩徐に立ち上がる準備電位(readiness potential; RP)が得られる。また、被験者に対する刺激呈示に伴い、脳波上には一過性の電位変化である事象関連電位(event-related potential; ERP)が観察される。本研究では、運動学習過程を検討するうえで近年重要視されてきたパラダイムを用いて、運動スキル課題遂行時のRP及びERPを調べた。
 課題は、引き金の牽引によって標的強度値を出力することであり、単一標的条件、複数標的条件、トラッキング条件の3条件を設定した。単一標的条件では、1種類の標的強度値の出力(1300g)を繰り返し、複数標的条件では、3種類の標的強度(500、1300、2100g)を交互に出力した。また、トラッキング条件では、1300g出力課題と2種類のトラッキング課題を交互に遂行した。1300gの標的強度値出力課題のみを分析対象としたことで、平均強度値及び運動速度に条件間の差はなかった。しかしRPの振幅値は、単一標的条件よりも複数標的条件及びトラッキング条件の方が有意に大きかった。この結果は、当該試行とは異なる課題を直前試行で遂行したために、運動プログラムやパラメータの修正が要求されたことに起因したものと結論づけられた。
 さらに、運動プログラムや強度パラメータの修正を要求する視覚信号呈示に伴うERPを検討した結果、同一の視覚信号であったにも関わらず、トラッキング条件におけるP240、P320の振幅値は他の2条件よりも有意に大きかった。1300g出力を指示する視覚刺激の呈示確率及び刺激間間隔(ISI)は条件間で異なっていたことを考慮しても、トラッキング条件でみられたP240、P320の振幅増大は、刺激の有する新奇性に起因したものと解釈された。