表題番号:1997A-193 日付:2002/02/25
研究課題1920年代の婦人解放期における軽演劇の舞踊の特性と意義
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 専任講師 杉山 千鶴
研究成果概要
1920年代の軽演劇の変遷において、上演された舞踊には、芸術を志向したものと、エロチシズムを感じさせるものとがあった。この後者の成立の背景には、観客である浅草の大衆が、社会不安に満ちた現実からの逃避を図るために刺激と官能を要求したこと、また、当時のモダニズムという文化の欧米化の大きなうねりの中で、エロ・グロ・ナンセンスという風潮が蔓延したという事情がある。この代表とも言える河合澄子と木村時子の活動記録を作成した結果、河合はエロチシズム一色の活動内容であったこと、一方の木村は途中喜劇に参加するなど女優としての活動も認められ、エロチシズムが際立って来るのは浅草レヴュー以後であったこと、この舞踊の特徴として、浅草オペラにおいては、①発展女優やデカダン女優など、舞台外で話題を撒いたオペラ女優による、②舞踊の技術の不足を補充するためにエロチシズムを用いた、また、映画館のアトラクション及び浅草レヴューにおいては、③ダンサーとしての技術を必要としない、④エロチシズムが既に浅草オペラでキャラクターとして規定された女性ダンサーによる、⑤それ以外の場合は脚線美が必要不可欠な要素となる、などが明らかになった。また変遷を通じ、洋装は、露呈した脚部への注目を促したことにより、身体的には脚部にポイントを置き、一方で可動域の拡大や動き易さをもたらし、女性の活動を家の中から社会へと拡大している。1920年代は、女性が自身の家からの、或いは男性からの解放に目覚め、実現すべく様々な運動を展開した時期と言える。そのような時期に、自身の身体を、男性中心の観客の前に見世物化する、男性依存の女性ダンサーの存在は、婦人解放の意識の普及度―特に浅草の大衆における―とも関わりがあるものと思われる。