表題番号:1997A-175 日付:2004/03/09
研究課題日本企業の業務構造の特徴とその変容に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 井上 正
研究成果概要
昨今の日本経済の低迷は、日本企業のあり方の根本的見直しを要請している。ところで、日本の企業システムのあり方の最大の欠点は、それが成長経済を前提にしたシステムであるという点にある。日本経済が成熟化し、シェア拡大路線が壁に突き当たっているとすれば、企業自体のあり方も問いただされなければならない。最近では、企業の組織構造そのものも情報化の進展あるいは市場環境の不確実性の増加とともに変化しつつあり、分社化あるいはネットワーク組織というものが注目を集めるようになってきている。本研究では、分社化が行われるいくつかの理由を検討した後、分社化の理由を、結局は事業の分割によって子会社の独立性が高まり、経営責任が明確になり、そしてより大きな自由裁量権や権限が与えられ、その結果特定の事業に特化し、迅速にその事業を確立できるからと結論づける。しかしながら、分社化が行われるのはこのような理由であるとしても、ではなぜ分社化と同様な効果を持つ可能性がある組織内分権化により、これらの目的は達成できないのであろうかという疑問に到達する。この課題に対する回答としては、契約が不完備にしか締結できない状況下では、同一企業組織内での権限委譲では従業員の関係特殊的投資へのインセンティブが弱まり、そのような権限委譲ではおのずから限界があるということが考えられる。それゆえ、分社化を行うことは事業に特化し迅速に事業を確立できる方法として捉えることができるのである。つまり、分社化によって雇用関係そのものが子会社に移されることで、従業員は親会社の事業部門に所属するときより、関係特殊的投資を行う強いインセンティブをもつと考えられるのである。