表題番号:1997A-121 日付:2002/02/25
研究課題ハミルトン系におけるエルゴード特性の微細構造
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 相澤 洋二
研究成果概要
本研究では、ハミルトン力学系の相空間の微細構造を詳細に決定し、それらが輸送現象やクラスター化に与える影響を明らかにすることを目指している。ハミルトン系の摂動に対する相空間構造の変化は、コルモゴロフ-アーノルド-モーザー(KAM)の理論を基盤に研究が進められ、相空間が低次元の場合については、大域的なカオスへの遷移機構が詳しく調べられている。しかし、実際の物理系との対応を考える場合、相空間が高次元であったり、KAM条件を満たさない相空間構造が現れることがしばしばあり、そのような系のカオスへの遷移機構は、既存の理論では十分には説明出来ていない。そこで我々は、相空間が高次元であることによる効果や、KAM条件の破れが系の大域的性質に及ぼす影響を調べ、次のような成果を得た。
 1. 4次元シンプレクティック写像において、KAMトーラス崩壊のメカニズムを、 摂動論的手法を用いて調べた。自由度 2の系では、KAMトーラスの摂動に対する強さは、回転数の数論的性質のみで決定されると考えられているが、多自由度系では、加える摂動によって より強いKAMトーラスは異なることが、摂動級数に現れる小さな分母に関する考察から明らかとなった。
 2. KAM条件を満たさないノン・ツイスト系において、KAM条件の破れが作り出す複雑な相空間構造を詳しく調べた。KAM条件を破るトーラスは、摂動に対して非常に頑丈であることが分かった。また、ノン・ツイスト系では、摂動の加え方の僅かな違いによって、大域的なカオスへと遷移する臨界パラメータ値が、大きく変わってしまうことが分かった。