表題番号:1997A-109 日付:2002/02/25
研究課題自然哲学の脱テクスト的探求の試み(2)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 教授 八巻 和彦
研究成果概要
本研究に関する今年度の研究は、西洋に伝統的に存在し、今なお、それと意識されないままに継続されている自然に対する考察の方法、即ち、自然を「解読すべきテクスト」として扱うことのはらむ問題群を明らかにすることであった。
 その成果の一端を以下に記す。この問題性の根本には、なんと言っても「ことば・言語」の(西洋において設定された)特権的本性(自然)が働いている。そこから生じる具体的問題としては、第一に、「ことば」を使用する人間と、「ことば」をもたない動植物およびその他の存在との間に設定される障壁である。第二には、人間の中で、「ことば」を読解できる者とそうでない者との間に自ずと生じる懸隔である。第三には、特に西洋の伝統において特徴的なことであるが、logosへの「信仰」とも言えるこだわりでる。この、いわば「logos信仰」は、ギリシア・ローマの古典文化にも、キリスト教伝統にも共通に存在し、相互に作用しあって今日に到っている。さらに、西洋のこの伝統がいかに強靱なものであるかは、西洋の伝統を根本から批判することを自己の哲学の課題と定めたハイデッガーにおいてさえも、「忘却された存在」を見出すための拠り所として、「ことばは存在の家である」とされることから明らかである。
 さらに、自然が「テキスト」(織物)として表象されることは、例えばゴブラン織りのような、より素晴らしい織物に織り直そうという誘惑が容易に生じることも、想像に難くない。つまり自然の加工であり、それは現代では遺伝子工学にまで進んでいるのである。
 このような問題性を有する方法をもって自然を考察するときには、自然を自然そのものとして考察することが不可能となり、不可避的に人間中心的かつ専門家中心となる。それは、現代の課題としての自然哲学に要請されている課題に応じうるものではないだろう。