表題番号:1997A-089 日付:2002/02/25
研究課題非水田農村の土地利用の展開と土地制度
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 宮口 とし廸
研究成果概要
わが国の農村社会は、他の国々に比べて高い生産力を持つ水田をいかに保持し続けるかという基本的原理で維持されてきた。山村においても早くから林業に特化した村は例外的で、厳しい条件の場所に水田を開いてきたことが一般的な歩みである。そして社会制度としてのその最も端的な現れは一子相続である。本研究は、水に恵まれない瀬戸内海の離島が、ある契機からミカン生産に特化した過程を調査研究し、その展開過程において、わが国一般の水田をベースにした農村社会の展開過程とは異なる特質を見い出そうとするものである。
 対象とした広島県豊町(大崎下島)では、島民が明治期に温州みかんを導入し、島内の急斜面にミカン畑を造成し、水田を持つ農村とは全く異なった景観が生まれた。特に大長地区ではこの動きが顕著であり、ついには他の島々あるいは本土の海岸の森林となっていた斜面を購入してのミカン畑造成にまで進んだ。この結果、船でミカン畑に通うという特徴ある生活様式が生まれた。農耕船の数はピーク時より減ってはいるが、現在でも日本において際だった状況がここにある。
 なぜこの地の人だけが、借金を重ねてまで他の島や本土にまで土地を求め、大変な労苦を重ねてミカン畑を増やしていったかという契機は今回の調査で必ずしも明らかにならなかったが、そのような行動をとった理由が、自分の子供たちができるだけ多くこの島で生活していけるようにしたいという願いに基づくものであったということを、何人かからのヒアリングで確かめることができた。このように、水田のように価値ある耕地を持たなかった地域の人々が、既存の枠内での一子相続という発想を持たずに行動したという、日本の農村社会を相対化できる事実を見出すことができた。