表題番号:1997A-079 日付:2003/04/03
研究課題異なる高度に生育するフジアザミ個体群の動態の比較研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 伊野 良夫
研究成果概要
本研究であつかったフジアザミは富士山南西斜面にひろがる宝永火山の噴出物であるスコリア上に生育している。植物の環境適応を研究する場合、植物にかかる環境ストレスが単純であり、かつ実験的に解析できることが望ましい。その意味から水不足、貧栄養、強光、基質の移動にさらされている富士山のフジアザミは最適な種のひとつと考えられる。富士山南西斜面に高度を違えて3個の調査区を設けた。上(標高2030m、25m× 30m)、中(標高2000m、35m× 35m)、下(標高1970m、30m× 30m)であった。標高2030mはフジアザミの分布限界に近く、5月末まで凍土層が残っていた。フジアザミは単独ロゼットあるいは数個のロゼットが集まった株をつくっていて、中区、下区では単独ロゼットが多かった。上区のロゼット密度は中区、下区の約1/3であった。ロゼット直径あるいは最大葉の長さで成長を表した場合、7月中旬までの相対成長速度は上区で大きかった。これは遅い芽吹きと関係あるものと推測される。7月中旬以降の各区の相対成長速度はほとんどゼロであった。ロゼットの最大葉の平均長は各区で有意差は認められなかったが、いずれの区でも1株1ロゼットのものの長さは小さかった。これは1株1ロゼットの個体が大きなロゼットをつくるだけの貯蔵物質を前年に蓄えられなかったことを意味する。繁殖努力の結果である花数について調べた。上区では1株のロゼット数が2,3個の場合、1ロゼットのつける花数は4個前後と多かった。中区では1株が3から5個のロゼットからなる場合に、1ロゼットあたりの花数は3.5個前後であり、それよりもロゼット数が増加しても減少しても花数は減少した。下区では1ロセットあたりの花数は他区に比べ少なかった。これらのことから、生育高度の限界に近い場所では、100mの高度差が個体群の構成、繁殖努力に大きな影響を与えていることが推測された。
研究成果の発表: