表題番号:1997A-078 日付:2002/02/25
研究課題非線形経済系の挙動に及ぼすノイズの影響の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 稲葉 敏夫
研究成果概要
対象としている経済システムが社会システムの一部であるとすれば、そのような部分系は他の部分系から不断に影響を受けている。そのような影響を経済系に対するノイズとして捉え、それが系の挙動に与える影響を分析した。一つは、2次元の非線形カルドアモデルを例として、ノイズが決定論系の挙動に如何なる影響を与えるかを分析した。位相的カオスの存在が示される、特定のパラメータ集合の下で、モデルの所得調整方程式の調整係数パラメータにノイズ摂動を与えることによって系の背後にある構造が顕在化することを数値計算で明らかにした。狭い周期の窓においては、ノイズは安定な周期よりもむしろ背後に隠されたカオス的アトラクターを顕在化させることを数値的に示した。このことは従来のノイズは単に周期性を弱めるだけとの主張を否定することになる。また、特定のパラメータ集合の下で、好況期のアトラクターと不況期のそれが共存する場合、ノイズがなければ好況期(あるいは不況期)の状態にあるとしても、ノイズによって好・不況を繰り返すようになる。さらには上記2個のアトラクターが融合している場合、好・不況を頻繁に繰り返しているとしても、適度なノイズ外乱によって好況の持続が可能となることも示した。他のモデルとして、3次元の開放形カルドア型景気循環モデルの国際資本移動の流動性の程度を表すパラメータにノイズ摂動を加えた。このモデルにおいては位相的カオスの存在は解析的には示し得ないが、リャプノフ指数などの指標からあるパラメータ領域においてはカオス的挙動があることを示した。やはりこの場合も2次元モデルで見られた性質を析出できた。