表題番号:1997A-073 日付:2002/05/10
研究課題東南マヤ地域における二次センターからみた古典期社会の再構成:土器編年を中心として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助手 寺崎 秀一郎
研究成果概要
本研究の目的は、ホンジュラス西部、コパン県ラ・エントラーダ地域における先スペイン期文化(特に古典期)の形成・発展過程を明らかにすることである。ラ・エントラーダ地域では700を越える遺跡が確認されているが、それらの中でも集中発掘が実施されたエル・プエンテ遺跡とラス・ピラス遺跡について重点的な資料の検討をおこなった。
 エル・プエンテ遺跡・建造物1番、ラス・ピラス遺跡・建造物2番は、それぞれの遺跡の中でも最大規模の建造物であり、往時は中心的な役割を担っていたと考えられる。これらの建造物からの出土遺物、特に土器資料の型式学的分類とその出土層位、および各段階の建築様式について分析をおこなった。その結果、出土土器群の組成や建築様式の類似性から、それぞれの建物はほぼ同時期、古典期中期後半に築造が始まり、後期には発展を遂げ、末期の開始以前に放棄されたことが推測できた。この両遺跡で確認された土器組成、建築様式の変遷は同時期の東南マヤ地域最大のセンターであったコパン遺跡の例と酷似する。これは両遺跡の形成・発展に「コパン王朝」が関与していたことを示している。詳細は「古典期マヤの政体の拡大-南東マヤ地域を例として-」(『史観』第138冊)に述べた。しかし、「コパン王朝」を頂点とする東南マヤ地域の社会構造を明らかにするためには、上述の二遺跡以外の例も検討する必要があり、今後の課題としたい。
 マヤ各地に展開する一次センターについては個別の「王朝史」が次第に解明されつつあるが、一次センターとその周辺に散在する二次センター以下の下位センターとの関係、あるいはその関係を通して見えてくるより包括的な古典期マヤの社会構造については、今後の重要な研究課題である。本研究はその一試論として位置づけることができよう。
 また、東南マヤ地域における先スペイン期文化の担い手と考えられているチョルティについても民族考古学調査の可能性を探るために、グアテマラ・ホコタンにおいて聞き取り調査をおこなった。その結果、粘土紐成形による土器製作や特徴的な流通ネットワークについての情報を得ることができた。今までチョルティの民族考古学的研究がおこなわれたことはなく、この分野の進展は、東南マヤ研究に新たな知見をもたらすことが期待できる。