表題番号:1997A-071 日付:2002/02/25
研究課題災害緊急時における集合行動に関する理論研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助手 土屋 淳二
研究成果概要
1995年の阪神・淡路大震災を契機として、災害事象に対する社会学的研究の重要性が、わが国においてもあらためて見直されてきた。本研究は、このような社会学的関心の高まりを背景に、災害研究への社会学的アプローチの可能性を検討したものである。とくにそこでは、すでに膨大な事例研究を蓄積するアメリカ災害社会学が集合行動論的アプローチを積極的に展開してきたという経緯をふまえ、当該理論モデルの災害事象への適用可能性が省察されている。
本研究では、次の2つの作業が並行的に実施された:(1)先行研究のレビューによる集合行動理論の分析視角と問題点の摘出、(2)阪神・淡路大震災事例に対する理論モデルの適用と分析。
(1)では、まずアメリカ災害社会学の理論展開にみられる系譜を整理し、災害時に生起するさまざまな集合的反応(パニック、流言、略奪、避難行動、スケープゴート、被災住民による抗議行動、災害ボランティア行動、等)分析に示される集合行動論的アプローチの理論的枠組みを摘出した。そして、災害緊急時行動の分析においては組織と行動、両レヴェルの創発性に対する視点が不可欠であることが再確認され、その点で、とりわけ創発規範モデルの有効性が明らかとなった。ただ当該モデルは、おもに緊急対応期での個人や組織レヴェルの問題に分析比重をおいており、より長期的なタイム・スパンにまたがる問題や、コミュニティ・レヴェルの対応をいかに取り扱うかという点で、今後解決すべき問題を残していることも同時に指摘された。
(2)の作業では、緊急対応期における集合行動エピソードのなかでも、とくに災害ボランティア活動に焦点を絞り、聞き取り調査等の実施によって以下の諸点に関し検討を加えることができた:a.未組織個人ボランティアを中心とする「資源過集中の問題」、b.ボランティア人材など「救援資源の需給不均衡問題」、c.ボランティア組織内および組織間での「資源処理問題」、d.活動参加や活動実践の諸相(機動性、活発性、内容、効率性)を決定づける要因間の相関、e.活動ライフヒストリーの各段階での組織問題。
なお、これら研究知見をもとに、今後さらに災害緊急時行動の調査・分析の対象を拡大していく計画である。
研究成果の発表:1997年6月「災害社会学における集合行動論の展開」第47会関東社会学会大会報告/1999年「災害社会学と集合行動論」『阪神・淡路大震災と社会学』「阪神淡路大震と社会学」編集委員会編(予定)/1998年「災害ボランティア行動に関する社会学的研究の視角」『'97ボランティアセンター研究年報』東京ボランティアセンター刊。