表題番号:1997A-058 日付:2002/02/25
研究課題古代東アジアにおける海民の基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 李 成市
研究成果概要
東シナ海、朝鮮海峡、日本海を越えて展開された古代東アジアにおける王権間の交流の実体とその変容過程を解明すべく、これまで文献史料を中心に分析してきたところ、王権(国家)間の交流が途絶えた後、とりわけ9世紀以降に顕著になる新たな交流には、海民の存在とその役割が重要な位置をしめることを見いだし、この課題に取り組むことがそれ以前の交流の実相に接近する方法となるとの見通しをえた。しかし、朝鮮半島の海民については文献史料が零細であり、古代においては全く手がかりがえられない状態にある。
そこで本研究では、まず日本古代中世の海民研究に関する文献目録を作成して、文献を収集し研究の現状を把握することに努めた。ついで近年韓国で発見された古代から現代に至る海民の祭司遺跡(韓国全羅道扶安郡竹幕洞遺跡)の現地調査を行い、そこから出土した遺物を見学し、あわせて報告書および関連文献を収集した。また、9世紀初頭に中国大陸、朝鮮半島、日本列島をまたにかけ海商として活躍したことが文献に伝えられる張宝高の拠点(全羅道莞島郡将島)が発掘調査中であるので、それらの関係資料および張宝高関係文献を韓国において収集した。この過程で海民のフィールドワークに従事している研究者との意見交換をおこなった。
 古代東アジアの交流に関する文献絵画史料として、歴代中国王朝が周辺諸民族の習俗を人物画とともに書きとめた職貢図に注目し、梁代(530年頃)に作成され、唐代の模写と推定される写本2点を所蔵する台湾故宮博物院に赴き、清代に作成された職貢図と併せて閲覧・調査を行った。これらは従来、日本の学会で紹介されながらも、直接の調査がはたされず正確な報告・分析がなされてこなかった。東アジアのみならず東南アジア海域諸民族の歴史、民族、習俗に関する貴重な資料として活用すべく、故宮博物院において複写を申請し関係史料を収集した。
研究成果の発表
1997年7月 『東アジアの王権と交易―正倉院の宝物が来たもうひとつの道』(青木書店)