表題番号:1997A-045 日付:2002/02/25
研究課題ギュンター・ツァイナーとヨーハン・ベムラー―15世紀のアウクスブルクの印刷語について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 藤井 明彦
研究成果概要
15世紀のアウクスブルクの印刷語は既に同時代の人々から、主にその脱方言的指向の点で賞賛され、またその言語史的研究の重要性も、ドイツ語史の概説書などでしばしば強調されてきた。この15世紀のアウクスブルクの印刷語の精確な姿を、その本質的な特徴を決定した初期の2人の印刷業者(ギュンター・ツァイナーとヨーハン・ベムラー)の総計60余点の刊本における書記法を調査・分析することによって明らかにするのが本研究の目的であった。
 15世紀のアウクスブルクの印刷語の精確な姿を明らかにするためには、次のような3つのレベルにおける言語的差異(①印刷工房間における差異、②同一工房作成の複数の刊行物間における差異、③一刊本の内部[最初のページ~最後のページ]における差異)を確定することが不可欠だが、①に関してはツァイナーとベムラーという初期の二大工房を比較する、②に関してはその両工房の刊行本を可能な限り多く分析する、また③に関しては各「折丁」の最初と最後の部分を抽出して分析を行う、という方法をとった。
 97年度はベムラー工房の計33点の印刷本(1472年~1491年)に関して分析を終えることができた。その結果、20葉前後の比較的小規模のものを除いて、1480年前後までの刊本には書記法の様々な部分領域において(主に植字工の交替と校正を行わないことに起因する)内的不均質性が見られる一方で、80年以降の刊本が比較的平準化された様相を示していることが確認された。しかし20年に及ぶベムラー工房の活動において一貫して特色として保持されたのは、所有代名詞mein, dein, seinの主母音に対するei書法のみと言っても過言ではない。最終的な結論はツァイナー工房の分析をまたなくてはならないが、少なくともアウクスブルクの印刷語に対する「賞賛」は、言語実状史よりも言語意識史のなかに位置づけられる現象ではないかと考えられる。