表題番号:1997A-039 日付:2002/02/25
研究課題マラルメと同時代の美術についての研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 川瀬 武夫
研究成果概要
「マラルメと同時代の美術についての研究」と銘打った本年度の特定課題研究は、主として1870年代の詩人の評論活動における、同時代美術に注がれた眼差しの意義を明らかにすることをめざした。1871年のパリ・コミューン崩壊直後に上京したマラルメは、それまでの高踏的な詩人としての孤立した営為の枠を越えて、旺盛なジャーナリスム活動を展開するようになる。そこで彼が直面したテーマは、都市文明のなかでの芸術の可能性にかかわるものだった。ロンドン博覧会を取材したルポルタージュでは、産業革命以降の社会における装飾芸術の将来が展望され、またマネの出品作のサロン落選を契機に書かれたマネ論は、群衆と芸術作品との新しい関係を考察している。従来の「虚無」と「絶対」の詩人といった紋切り型のマラルメ像は、こうした1870年代の彼の活動の再評価によって、大きな修正を余儀なくされるであろう。ちなみに、彼のマネ論は、この画家の試みをフランス印象派との関連のうえではじめて正当に位置づけたものであり、19世紀美術批評史においてもきわめて重要な地位を占めうるものである。かかるマラルメの透徹した同時代美術への洞察があればこそ、1880年代以降の象徴主義絵画をめぐる活発な議論が、まさに詩人の主宰する「火曜会」というサロンを舞台に展開されることになるわけだ。
 本研究で得られた知見の一部は、本年3月に筑摩書房より刊行された『マラルメ全集Ⅲ』(「インド説話集」「散文さまざま」の章に収められたテクストの翻訳、解題、註解を担当)の最終校正段階で生かすことができた。また1870年代に発表されたマラルメの散文詩「類推の魔」の読解を中心テーマとした論文「隠蔽されたペニュルティエーム--マラルメとブルトン」が、せりか書房より刊行されたシュルレアリスム論集『シュルレアリスムの射程』(鈴木雅雄編)のなかに収録された。