表題番号:1997A-035 日付:2003/08/23
研究課題船荷証券の記載とその効力に関する比較法的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助教授 箱井 崇史
研究成果概要
船荷証券が傭船契約の下で発行された場合に、債務者たる運送人が傭船者であるかそれとも船主であるかという、いわゆる運送人の特定の問題が生じることがある。古くは傭船契約の法的性質を検討することにより、対外的責任主体の帰属を決するという解決が示されていたが、近時は船荷証券の記載とその解釈によりこれを決するという立場がほぼ確立している。しかし、その際の解釈がいかになされるかについては未だに明確な基準が示されるに至っていない。私は、すでにこの問題について、証券の徹底した外観解釈により解決を図るフランスの判例理論に関する研究を公表している。今回の研究では、現在の船荷証券法の下で考えうる妥当な解決を探るため、運送人特定のプロセスにおいて、船荷証券の記載と証券外の事実がどのように考慮されるのか、その相互の関係はいかに調整されるべきなのか、という点の解明に努めた。その成果は、論説「運送人の特定における船荷証券の記載と証券外の事実」として公表した。
 論説の総論にあたる前半部分では、船荷証券の記載の解釈という視点による運送人特定のプロセスについて検討し、私見を提示した。すなわち、船荷証券上の運送人の特定プロセスにおいて、証券所持人の視点における証券表示上の運送人の特定と、その者が責任を負うか否かの判断は、それぞれ明確に区別すべきであり、原則として前者については証券外の事実を考慮すべきではないとの結論を導いた。次いで、後半では、わが国の裁判例において具体的に問題とされている「船長のため」の表示とデマイズ条項について、運送人の特定に際するそれぞれの意義を考察し、現在の裁判例・通説の立場は、こうした運送人特定のプロセスからみて疑問であることを指摘した。
 これにより、2年間にわたった運送人の特定をめぐる研究は、ひとまず所期の目的を達成することができた。
研究成果の発表
1998年3月 「運送人の特定における船荷証券の記載と証券外の事実」早稲田法学73巻3号
      「船荷証券責任論」(学位請求論文として大学院法学研究科に提出済)