表題番号:1997A-034 日付:2002/02/25
研究課題宗教団体への献金の法的構成をめぐる研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 棚村 政行
研究成果概要
宗教法人や宗教団体にどのような名目でいくらお金か集まっているかは、大教団でさえ必ずしも明らかにされていない。たとえば、天理教は1993年の歳入歳出171億円、金光教1993年収入85億円、支出75億円、日本基督教団収入122億円、支出90億円、カトリック中央協議会1994年収入約2億円、支出2億円、献金寄付金6億5000万円など、自主的に機関誌等で経理内容を明らかにしているところもある。これらの公表された経理会計内容を見てもわかるように、宗教法人や宗教団体の収入の大半は、信者からの寄進、寄付、献金で成り立っている。本研究では、これまで十分な法的検討がなされてこなかった「献金」「お布施」「財施」「財務」などと各宗派や宗教ごとに異なる金銭の授受について、その法的性質、返還の要否、献金、お布施の宗教行為性と法律行為性等につき、最近のわが国における裁判例の検討、学説の整理等をしたうえで、法律行為=多元的構成説を主張している。すなわち、寄付や献金等の宗教的意義や宗教行為性を考慮しつつ、当事者の意思、目的、出捐後の使途など実態に即した法的構成をすべきことを提唱した。これまで宗教団体側で主張してきた非法律行為=宗教行為説は、「献金」等の宗教行為性を強調しすぎて、どんなに多額の献金でも返還の対象にならない点はあまりにも妥当性を欠く。また、寄付者、受寄者、受益者の三当事者がいて、寄付の多義性を承認する点は評価できるが、法律行為=贈与説も、金銭をめぐる宗教慣行、意識等を無視する点で問題がある。本研究では、宗教団体への財産出捐行為の宗教的意義と宗教固有の伝統や慣行を考慮しつつ、神社、仏教、キリスト教などでの、会費的献金、お布施は構成員としの目的的贈与類似の金銭給付契約で、原則として返還が認められず、宣教献金、礼拝堂建設献金等の目的が限定されいるケースでは、信託行為的構成をとって、受託者である宗教団体に報告義務を課し、誠実な管理運用義務を課すことを主張している。信託的構成については、英米での判例法理の発展等を踏まえ今後とも研究を続けてゆきたいと思う。なお、宗教法16号に本研究の成果は公表した。