表題番号:1997A-029 日付:2002/10/19
研究課題ジョルジュ・バタイユ研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 吉田 裕
研究成果概要
1990年頃からバタイユについての研究を続けていて、ここ数年は、とりわけ1920年代から30年代にかけてのバタイユの政治的な思想と行動を明らかにすることを目的とする研究を行った。この時代は、ロシア革命以後の社会主義革命運動の変質、そしてその反動のようなファシスムの勃興というふうに、左右が激しく対立しあった時代であった。フランスもまたその坩堝の一つであり、34年の右翼の暴動から36年の人民戦線の成立に至るまで、さまざまの政治的思想的潮流が渦巻いた。バタイユは、この時期には思想家というよりも、ほとんど左派の活動家と言わねばならないような姿を残しているが、それを正確に捉えることは難しい。というのは、彼はどこかの大組織に属していたわけではなく、小グループの中におり、独立した思想を持っていたからだ。これをとらえるためには、彼の言動をいきなり思想的に定式化するのでなく、まずそれを彼の時代と社会の現場に置いてみる必要があった。
 すなわち、バタイユの傍らには「民主共産主義者サークル」を率いていたボリス・スヴァリーヌがおり、その背後には、次第に溝を深めていくとは言え、トロツキーの存在があり、トロツキーと対立するスターリニスムの問題があった。またバタイユは最後には、民兵組織を構想するに至るが、その時、同様のことを考えている小グループがほかにないわけではなかったようだ。加えるに、彼よりもかなり年下であったが、シモーヌ・ヴェイユの存在は、彼にとって大きな意味を持ち続けた。そうした錯綜した現実の中にまず彼を置いてみようとして、かなり細部にわたる探索を行わねばならなかった。それが、今回の研究である。