表題番号:1997A-003 日付:2002/02/25
研究課題第二次世界大戦後のドイツ現代詩における詩的自我とコミュニケーションの関係について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 助教授 斉藤 寿雄
研究成果概要
一昨年、小論『詩的自我とコミュニケーション-1950年代、60年代のドイツ現代詩』のなかで、第二次大戦後の詩がコミュニケーションの意味を失った地点からさまざまな模索を開始した経緯を論じた。その際、アドルノの唱く世界の「物象化」という現象がいかに人間の孤立化と不安定化を助長したかを主眼に、詩的自我それ自体がコミュニケーションを拒絶する戦後詩の傾向をあきらかにした。昨年はこの考察をふまえて、ゴットフリート・ベンが1951年におこなった講演『抒情詩の諸問題』のなかで提唱した「現代詩はモノローグ的性格をおびる」というテーゼを手がかりに、1950年代、60年代の詩をあらためてモノローグの視点から考察した。とりあげた詩的潮流は「気密抒情詩」、「魔術的自然抒情詩」、「コンクレート・ポエジー」である。この考察では、特に詩的自我の様相に注目し、ナチスの過去とその過去との直接対決をさける戦後ドイツ社会に二重にきずついた詩的自我が他者へのはたらきかけに絶望したモノローグという表現形態をとることをあきらかにした。そしてこのモノローグ的な詩のなかに頻出する「沈黙」という表現が、戦後ドイツ社会の閉塞状況を示唆する重要なメルクマールであることをつきとめた。たとえば、「気密抒情詩」は、コミュニケーションとしての言葉の限界につきあたった瞬間に、語りでる行為(モノローグ)が沈黙へと強いられる構造をうちにはらみ、「魔術的自然抒情詩」では、「不安、冷たさ、停滞に支配された」自我が閉塞した社会状況を沈黙によって語らせようとし、「コンクレート・ポエジー」では沈黙さえすでにその内実を失い、詩的自我が事物化された言葉によって世界の新たな関係性を紡ぎだそうとする。要するに、こうした沈黙を通して、モノローグ化された詩は1950年代、60年代の社会の不安を特徴的につかみだしているのである。
研究成果の発表
『モノローグと沈黙-1950年代、60年代のドイツ詩』、「教養諸学研究」第104号、早稲田大学政治経済学部、1998年3月25日