表題番号:1996A-536 日付:2002/02/25
研究課題後期大乗仏教の諸問題に関する文献的基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 坂井 淳一
研究成果概要
 筆者はかつて、「唯識二十論」や「観所縁論」等に見られる、いわゆる<三種の有外境論>に於て展開されている極微とその集まりについての三種のモデルのうち、とりわけその第一モデルと第二モデルについては、「二十論」ヴィニータデーヴァ註や「成唯識論述記」等の関連箇所の記述をもってしても、そのイメージを確定することは難しく、かつまた、それらのモデルの唱導者達についても古くからの伝承は必ずしも正しくはないことを明らかにしたが、今回の研究に於ては、その問題についてもう一歩踏み込んで、主として以下のことがらについて考察をすすめている。
 1.「二十論」や「観所縁論」に先行する「婆沙論」やいわゆる六足発智等に於る極微説についての考察。これは、極微説の歴史的発展過程を探ることを目的とするものであるが、現在、とりわけ「婆沙論」に散在する関連箇所の記述のパターン分けをすすめつつある。
 2.「倶舎論」をめぐる極微説の考察。これは時代を画する著作であり、筆者のかねてからの研究の中心である「倶舎論」およびその関連著作に於る極微説を特に研究するという目的によるものであり、主として「順正理論」と、安慧による「倶舎論」註である「タットヴァ・アルター」の解説をその内容とする。なお、「順正理論」については、1995年に国際仏教学研究所により刊行されたCollett Cox氏による英訳研究に最新の研究成果が盛り込まれており有用である。
 3.インド古典認識論・論理学に於る「一と多」の概念についての考察。極致とその集まりの問題の根底には、「一と多」というインド古典認識論・論理学の重要なキーワードが横たわっている。現在、この問題について、特に極致と大種の関係、<麓なるもの>と<細なるもの>との関係等を中心に考察をすすめている。