表題番号:1996A-530 日付:2002/02/25
研究課題証券市場において情報が投資家の意思決定に与える影響の分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 専任講師 葛山 康典
研究成果概要
 本研究では証券価格の形成過程を投資家間の情報非対称性の視点から分析した。ここで、投資家の情報非対称性に関する代理変数として、 Karpoff(1985)のモデルに基づいて、証券評価のばらつきや、改訂量の大きさ、その順位相関を用いた。このモデルは市場で観測される証券収益率の分布が、正規分布に比して尖っているという混合正規分布仮説に対して整合的である。混合正規分布仮説は、ひとつの情報が証券収益率に与える影響は平均ゼロの正規分布に従うとの仮定のもと、この影響が累積され収益率分布が正規分布にたいして大きな尖度をもつようになると解釈されている。
 本研究では、投資家の情報非対称性の尺度として、アナリストの業績予想値を用いた。このようなデータは、従来利用可能ではなかったが、近年データベース化が進んでいる。これらのデータを用い、出来高との関係に基づいて価格形成と情報非対称性の関係を検討した。その結果、情報非対称性の尺度のうち投資家間の評価のばらつきや、評価の改訂量が有意に価格形成に影響を与えているという結論が得られた。またKarpoffモデルでは通常のワルラス均衡が想定されていない。つまり投資家はあらかじめ定められた投資家とだけ取引が可能であると仮定されている。本研究では、この仮定は受容されない場合があることが示された。
 また、ポートフォリオベースとして投資家の価格評価行動を考えた場合に問題となる、取引コストについても取り扱った。ここでは、ポートフォリオのリバランスを通じた数値計算によって価格評価の上界と下界が導出された。