表題番号:1996A-526 日付:2002/02/25
研究課題金属錯体の励起状態と光化学反応に関する理論的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 専任講師 中井 浩巳
研究成果概要
 本研究では、金属錯体の励起状態の量子化学計算から、それらを一般的に理解するための規則を見い出すことに成功した。また、励起状態のポテンシャル面の計算から、Mo(CO)6の光分解反応や白金テトラシアノエチレン錯体の光異性化反応の電子的メカニズムを解明した。ここでは、前者の研究について、その概要を報告する。
 金属錯体の励起状態に関する一般則:多くの金属錯体は高い対称性を持つため、二重あるいは三重に縮退した分子軌道を持つ。それらの縮退軌道間の遷移に基づく励起状態は、複数個現われる。我々は、これら励起状態の順序や分裂幅には、一般則があることを見い出した。すなわち、「同じ主配置を持つ複数の励起状態のうち、許容遷移に相当する状態は最も高いエネルギー準位に位置し、しかも他の準位との分裂幅も最も大きい。」実際に我々は、この規則が、正四面体(Td)構造のオキソ錯体、MO4(M=Cr,Mo,Mn,Tc,Ru,Os)、正八面体(Oh)構造のMoF6やMo(CO)6などについて成り立つことを確認した。さらに、この規則は金属錯体に限らず、縮退軌道間の遷移に基づく励起状態に関する一般則であることも確認した。例えば、直線分子やD6h構造のベンゼンのpai-pai*励起状態、正20面体構造のC60やB12H122-の励起状態などである。このように、この規則が任意の分子について成り立つのは、エネルギー準位や分裂幅が分子の性質には関係なく、遷移に関係する分子軌道の重なりにのみ依存しているためである。さらに、この規則は、ちょうどHund則が同じ主配置を持つ異なるスピン状態に関するものであるのに対し、同じスピン状態内で成り立つ規則として注目に値する。