表題番号:1996A-516 日付:2014/04/18
研究課題早稲田大学図書館蔵村尾元融手沢本「続日本紀」の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 講師 高松 寿夫
研究成果概要
 本校中央図書館に所蔵されている「続日本紀」の木版本(明暦版本)のうち、請求番号リ5・1938・1-19は、江戸時代末期の国学者、村尾元融の旧蔵になるもので、本文中には、元融自身の手によって書き込まれた注記や、他の「続日本紀」テキストによる校合の跡を大量に認めることができる。村尾元融といえば、彼の死後に公刊された「続日本紀考証」によって知られるが、当元融手沢本「続日本紀」は、その書き込みの量の多さからも、「続日本紀考証」執筆にあたって用意されたものであることが想定される。そのような見通しに立って書き入れの内容を検討してみると、確かに「考証」の注文とほぼ一致するものが多く認められることが判明した。
 今年度の調査では、全19冊(明暦版本は全20冊であるが、当手沢本は首巻を欠いている)総ての書き込みについて「考証」との比較は完了していないが、「考証」成立の過程を知るのに絶好の資料であることは、まず間違いなかろうと思われる。なお当手沢本奥書によって、元融の本文校訂作業においては、内藤広前手沢本(現在所在未詳)が重要な役割を担ったことが窺え、「考証」例言に元融が記すところと一致するばかりでなく、諸々の徴証から、「続日本紀」の写本間の本文異同の確認においては、この内藤本の校合書き入れによるところが大きかったことが窺える。それらの事柄も含めて、いずれ当元融手沢本の性格について総合的に明らかにした上で、公に紹介する機会を得たいと考えている。更に、今回の調査の結果、当手沢本は明治38年10月に、村尾元長氏より当大学へ寄贈されたものであることが判明し、同時に、「古事記」「日本書紀」などの元融手沢本(いずれも版本への書き込み)も寄贈されていることが確認できた。中でも「続日本後紀」(請求番号リ5・1939)における書き込みは、「続日本紀」におけるものと量的に遜色のない大量なものであり、元融の学問を跡付ける上にも重要なものであることを窺わせるものである。