表題番号:1996A-514 日付:2002/02/25
研究課題カント・ヘーゲル・ハイデガーを中心としたドイツ近現代哲学における形而上学構想の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 専任講師 鹿島 徹
研究成果概要
 新任教員の特定課題研究費が申請後に一律20万円と決められて、申請額の半分とされたため、当初の計画を大幅に縮小・変更することを余儀なくされた。そこでカントの形而上学概念に研究対象を限定し、とくにその日本における影響を研究するために埴谷雄高との関係を取り上げることにした。
 埴谷雄高は『死霊』を主要作品とする小説家である。しかし彼は小説をあくまで「形而上学の手段」として選び取ったのである。そのさいに決定的な影響を与えたのが、戦前非合法活動に従事して投獄された独房で読んだカント『純粋理性批判』なのであった。この有名な「カントとの出会い」から具体的にどのように小説『死霊』が「小説という手段による形而上学」として構想されたのかについては、しかしこれまで明確にされてこなかった。そこで、埴谷のカントへの言及箇所を逐一分析し、その『純粋理性批判』の対応箇所と対照させる作業を行った。それを通じて「形而上学」概念をめぐるカントから埴谷への影響関係を明らかにすることができた。この研究成果はすでに論文のかたちにまとめて印刷に回しており、97年度中に公刊されることになっている。
 また副次的な研究成果としては、同じ埴谷雄高の「自同律の不快」を取り上げ、これを形而上学が成立する場に働く「根本気分」と解釈する作業を進めた。それを更に展開して、ハイデガーが「前存在論的気分」と呼ぶ「不安」とこれを対比することによって、形而上学の根本にあるものを明らかにする研究を行うことができるという見通しがついた。今後はさらにカントやヘーゲルにおける同様の次元を掘り起こし対比することによって、各哲学者間の「形而上学」概念の相違を、その底にひそむものに着目しながら検討する研究を行う予定でいる。