表題番号:1996A-513 日付:2002/02/25
研究課題D.Hロレンス作品のキャラクター分析:クリフォード・チャタレイの場合
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 専任講師 小田島 恒志
研究成果概要
 クリフォード・チャタレイの分析に入る前段階として、前作『翼ある蛇』の主人公ケイト・レズリーの分析を終了した。
 ロレンスが以前からケルト民族の「柔らかみ(softness)」に惹かれていたことに注目すると、ケイトを単にヨーロッパ人やイギリス人ではなくアイルランド人に設定した点は見過ごせない。『翼ある蛇』を‘soft’をキーワードに読み解くと、民族間の融合という大きなテーマの裏で個人と個人の交流を追求していたことが分かる。これが次作『チャタレイ夫人の恋人』の主題‘tenderness’に発展すると見做すことによって、一見溝があるかのように思われる一連の「指導者小説群」と『チャタレイ』の作者の視座が一貫したものだと分かる。『チャタレイ』では主人公コンスタンスをケルトの血を引くScottishに設定した。その夫クリフォードが病めるEnglandを、恋人メラーズが病気から回復するるEnglandを象徴することは歴然としている。然し、問題は余りにもクリフォードが「悪玉」然としていることである。G.Levineのように彼を「フランケンシュタイン」に準える論者もいれば、T.S.Eliotのようにこれを物語作成上の不備と考える論者もいる。これでは「人物が型に嵌るとその小説も死ぬ」と言ったロレンス自身の言葉に反することになる。
 例えばクリフォードを『息子と恋人』のポール・モレルと比較してみる。すると無意識レベルでの「自己の肉体の破壊欲」が大地母神への男性の抵抗だと以前ロレンスが考え、描いていたことが浮き彫りになり、クリフォードも単にロレンスの思想上の攻撃目標ではなく、実体験に基いた「生きた」人間だと分かる。現在、この点でのevidenceをまとめ、論文執筆中。