表題番号:1996A-511 日付:2002/02/25
研究課題日本に於ける仏典受容(1)ー禅寂の『月講式』と貞慶『舎利発願』
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 専任講師 ニールス・グュルベルク
研究成果概要
 申請した金額の半分しか認められなかったので、研究に必要な文献も予定した半分程度しか購入できなかった。従って、研究は当初計画していた程には進められなかったけれども、計画していた二つのテーマに関して、それらの文献で可能な限りのところまでは研究を行なった。その原稿はほぼ纏まったので、近く発表の予定である。
 今回の研究は、二つの部分、即ち(一)禅寂の『月講式』と、(二)貞慶の『舎利発願』に分かれていた。
 (一)禅寂の『月講式』は、『方丈記』の作者、鴨長明の為に書かれたものであることから、中世文学研究者にも広く知られているという点で、例外的な講式である。ただ従来の中世文学の研究では、二つの重大な問題が充分解決されないまま残されていた。その一つは、禅寂が法然の弟子であったことだけから、『月講式』も法然の教学に基づいているとされているが、実際にはその根拠が示されていないという問題である。もう一つは、『月講式』に現れる狂言奇語観をめぐる論争である。これらの問題の考察は、国文学的視点からだけでは不充分であり、今回私が行なったように仏教学的立場からも検討されるべきである。
 従来『月講式』は、鴨長明の浄土教と法然の浄土教とを結びつける拠り処とされてきた。しかし、私は厳密な出典考証によって『月講式』の見直しを行なった結果、『月講式』に法然の教学の跡は全くないことを明らかにすることができた。この研究成果は「『月講式』に現れた禅寂の思想」という題で公けにしたい。
 (二)貞慶の『舎利発願』は金沢文庫所蔵の資料であり、既に学会でも紹介されているが、調査研究はまだ甚だ不充分である。その大きな理由は、金沢文庫本のテキストは相当傷んでいる為に、充分解読できない状態にあるからである。私の研究調査によって、同じ『舎利発願』に別の写本が、然も完全な形で残されていることが解った。この『舎利発願』は、貞慶の他の作品、即ち『誓願舎利講式』と『舎利勘文』との真偽を判定する為に重大な手掛かりを与えるものである。この研究の成果は、「『舎利発願』と貞慶の舎利信仰」という題で発表の予定である。