表題番号:1996A-510 日付:2002/02/25
研究課題宗教団体の民事責任の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 棚村 政行
研究成果概要
 日本でも最近では宗教団体の行き過ぎた資金集め、人集めが社会問題化し、訴訟でその違法性が争われるケースが散見される。本研究では、国民生活センター、全国各地にある消費者センター、全国霊感商法被害弁護士連絡会に寄せられた被害の実情、特色、被害構造などを分析し、宗教団体絡みの被害につき、1.被害の反復継続性、2.被害の全面性徹底性(家族崩壊・人格破壊も含む)、3.宗教活動と経済活動の一体化など、通常の詐欺的商法とは異なる構造的特色があることを明らかにした。
 また、宗教団体の信者の違法な資金集めに対して、宗教団体自体の使用者責任を問えるかという問題に対しても、実質的指揮監督関係があって、宗教団体の手足として信者が行動し、集めた資金も宗教団体の手に渡っている以上、715条の責任は免れないという立場を打ち出している。これは、最近の福岡高裁判決でも、高松地裁判決においても採用されるところとなっている。
 ところで、1988年のモルコ事件カリフォルニア州最高裁判決では、勧誘の際に宗教団体であることを故意に隠して、教会の活動に従事させ、強制的な説得により自律的判断力を喪失させたことを詐欺にあたるといして、元信者からの献金の返還、損害賠償の請求が認められた。また、14歳の少女を勧誘して親元から引き離した新宗教団体が、1992年に懲罰的損害賠償金の支払いを命じられたカリフォルニア州控訴裁判所判決もある。これらは、伝道や宗教活動名目でも、違法性が認められ不法行為責任が課せられることを示しており、日本でも大変参考になろう。
 わが国でも信教の自由の保障から、宗教活動に憲法的保護は及ぶといえるが、どのような行為でも法的に許されるわけではなく自ずから一定の限界がある。違法性の判断基準、信者の行為に対す宗教団体自身の責任、過失相殺、制裁的慰謝料、宗教行為に対する司法審査権など、アメリカ法などと比較研究しながら、検討をさらに続けることにしたい。