表題番号:1996A-504 日付:2002/02/25
研究課題森鴎外を中心とする国語国字問題に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 宗像 和重
研究成果概要
 本研究は、明治・大正の国語国字問題を、森鴎外とのかかわりを中心に考察しようとするものである。
 幕末からの国語国字問題については、たとえば時枝誠記に「外国模倣の皮相な改革論は、日清戦争後次第に衰へて、もっと実際的な、可能性のある国語の問題を考へるやうになって、ここに問題は、文字改良論から、仮名遣改訂、文体改良、言文一致、標準語、方言等の問題に転向して行った」という要約がある。鴎外が、こうした国語国字問題に少なからぬ関心をいだいていたこと、とりわけ仮名遣改訂をめぐる問題については、歴史的仮名遣を支持する立場から、強力な論陣を張ったことなどについては、従来からよく知られているであろう。
 ただ一方で、晩年の鴎外が会長に就任した臨時国語調査会が、その没後に仮名遣を表音式に改訂する「仮名遣改訂案」を発表したこととや、これについて、「もし博士が健在で、この案の制定に参加されたら、決してこの案に反対されなかったであろう」という見方もあることに、注目したい。鴎外における仮名遣問題の難しさと重要性がここにあるわけで、この問題を検討することは、晩年の鴎外を理解する大きな鍵であるとともに、近代における国語国字問題の理解の上でも、不可欠であると考える。
 本研究では、そのような立場から、第一に鴎外関係の資料の収集を通して、鴎外における国語(仮名遣)問題への発言と、彼の表記そのものを確認することに努めた。また第二に、近代の国語国字問題の資料の収集を通して、その実情を確認することに努めた。これらを通して、「洋行帰りの保守主義者」としての従来の理解を、時代とのかかわりにおいて再検討する端緒が開かれたが、問題が大きく多岐に渡るので、今後その一つ一つを個別に解明することで、本研究のテーマの全体像に迫る予定であることをお断りしたい。