表題番号:1996A-311 日付:2002/02/25
研究課題重イオン照射が高分子固体に及ぼす化学作用とエネルギー付与過程
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学総合研究センター 教授 浜 義昌
研究成果概要
 特に重い520 MeV Kr20+と450 MeV Xe23+を各々、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)に種々の線量照射し、これまで行って来た比較的軽いイオンとの対比を行った。照射後、生成物収量の深さ方向分布を従来の方法と同様に顕微FT-IR装置を用いて測定した。両イオンとも1核子当たりのエネルギーが低いため、飛程は数十ミクロンである。顕微FT-IR測定における最小アパーチャーサイズが10 um X 10 umであるため、深さ方向分布における情報量は極端に少なくならざるを得ないが、その分布に関しては理論的TRIMコード計算による阻止能の深さ方向分布と大きく異なっていることが見い出された。この傾向は、軽イオンにおけるイオンの運動終端近辺での差異よりさらに著しい傾向にある。これは軽、重イオン間の核の電荷が大きく異なっていることに起因していると推察した。すなわち、物質中においてイオン速度の減速と共に物質構成原子の軌道電子とイオンとの間に電子の交換が起こるが、その過程の正確な情報がTRIMコードの計算アルゴリズムの中に取り込まれていないと考えられる。とくに、高分子のような複雑な系におけるこの種のデータは皆無といえるので、本研究におけるデータはそれに対する有益な示唆を与えるものとなろう。さらに重要なことは、化学構造変化を通じてエネルギー付与過程との対比を行っているために、付与エネルギーと化学反応過程との関係を厳密に検討することが必要である。すなわち、高密度イオン化、励起状態下における反応収率の検討が重要である。