表題番号:1996A-302 日付:2002/02/25
研究課題老化による体内時計への光同調低下の神経機構解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 柴田 重信
研究成果概要
 外界の光刺激は動物の体内時計をリセットするが、光同調が老化により減弱している可能性がある。視交叉上核シナプスの長期増強現象をはじめとする可塑的変化に老化の影響があるか否かについて研究することは、外界の光刺激による同調の神経機構そのものを理解する上にも、また老化による同調性の低下のメカニズムを理解するにも重要なことだと考えられる。
  光刺激の情報は視交叉上核のVIP ニューロンに伝達されると考えられている。そこで視交叉上核からのVIP遊離を指標として、視神経刺激がこの遊離を増大させるか否かについて調べた。また、VIP遊離に対する老化の影響について調べ、視交叉上核シナプス伝達の老化による低下をVIP遊離という物質的背景についても調べた。視神経刺激により視交叉上核からのVIP遊離は増大した。VIP遊離の増大は視神経刺激の強度と周波数に比例して増大した。すなわち、0.9mA、20Hzの電気刺激によりVIPの遊離量は基礎遊離量に対して約130-150%に増大した。老齢動物の視交叉上核からのVIPの基礎遊離は若齢群とほぼ同程度であった。しかしながら、視神経刺激や高濃度KClによるVIPの遊離増強は減弱した。視交叉上核のシナプス機構を反映すると考えられる長期増強現象に対する老化の影響を調べた。視神経刺激により視交叉上核から記録される電場電位の大きさは時刻依存性に高頻度刺激(100Hz、1秒間)により増大した。明期に高頻度刺激を行うと電場電位の大きさは刺激後60-120分後には刺激前の約200%に増大した。またこの増大現象は刺激直後には現れず、ゆるやかなカーブを示した。以上の結果、シナプス伝達機構が老化により低下することが明らかとなりこの低下は老齢動物の光同調性の低下に関連するものと考えられた。このようなシナプス伝達の低下を改善する薬物が見つかれば、これは老化による光同調の低下を軽減させうるものと考えられる。