表題番号:1996A-300 日付:2002/02/25
研究課題ラット排卵・妊娠神経制御における中脳背側縫線核の役割
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 山内 兄人
研究成果概要
 ラットの妊娠は下垂体前葉から分泌されるプロラクチンの周期的分泌により、卵巣の黄体からプロゲステロンが分泌されて維持される。妊娠状態は腟の刺激や脳のモノアミン枯渇剤投与により人工的に誘起でき、子宮の脱落膜腫形成により形態的に検証できる。
 本実験では人工的な妊娠(偽妊娠)誘起に対して、セロトニンニュ-ロンがどのような影響をもつかセロトニン合成阻害剤であるp-chlorophenylalanine (PCPA)を投与し影響をみ、さらに、セロトニンニュ-ロンの最も豊富な中脳の背側縫線核の働きを破壊により調べた。
 正常な4日周期の雌ラットの発情間期Iに1 mg/kg reserpine(R)を投与すると19匹中17のラットに脱落膜腫形成が生じたが、R投与3日前から4回、5 mg/kg PCPAを投与された群では15匹中5匹のみ脱落膜腫がみられた。また、R投与後4回PCPAを投与されても13中6匹で脱落膜腫が形成されたにすぎなかった。この結果より偽妊娠誘起と維持にはセロトニンニュ-ロンの働きが必要であることが示された。
 次に雌ラットに背側縫線核か正中縫線核を破壊しておき、R投与または腟刺激によって偽妊娠状態が生じるかどうか検証した。背側縫線核を破壊しておくと、腟刺激をしても15匹中7匹のみで脱落膜腫がみられ、Rを投与しても18匹中10匹のみ脱落膜腫が生じた。一方、正中縫線核を破壊したラットでは、腟刺激でも、Rを投与した場合も、9匹中すべての動物が脱落膜腫を生じた。このように中脳の背側縫線核のセロトニンニュ-ロンが偽妊娠誘起に必須のものであることが示された。
 排卵前日の午前中に背側縫線核を破壊すると翌日の排卵が生じなくなる事から、背側縫線核は偽妊娠と同様,排卵に関しても、重要な働きをしていることが示されている。